28 親友の、婚約者。
なんとか都合をつけ、グラジオ様とともにミルヴァーナ王国へ。
フォルビア様の婚約者、ヘレス・ボルニゲル様が私たちを迎えてくれました。
ヘレス様は、次期侯爵様。隣国との関係強化のため、グラジオ様とは幼い頃から繋がりがあります。
「よく来たね。グラジオ、リリィベル嬢。……フォルビアは、今回はいないんだったか」
「ルーカハイト領の若手三人、全員が抜けるわけにもいかなくてな。婚約者に会わせられなくてすまない」
「はは、また違う機会を探すよ。ところでだが……リリィベル嬢」
「はい」
「その……守護精霊様は、今も近くにいるのかい?」
ヘレス様は、ちょっと恥ずかしそうに、こそっと、私たちにそう聞きました。
守護精霊とともに闇を祓う聖女。そんな話が、他国まで届いていたようです。
ヘレス様が「見える」方かどうかわかりませんが、とりあえずミュールを見せてしましょう。
悪魔だったらこうはいかなかったはず。守護精霊という名称、便利です。
「ミュール、出てこれますか」
『ほいほい』
私の胸あたりから、黒猫の姿のミュールがぽんっと出てきました。
ヘレス様の反応は……
「フォルビアから聞いた通りだ! 黒猫の姿をした、守護精霊のミュール様……!」
『見えとるな』
「最初からこれとは、流石ヘレスだな」
「フォルビア様からお話を?」
「ああ。なかなか会えないが、頻繁に手紙のやりとりをしていてね。親友と守護精霊様の話がよく出てくるんだ」
「そうでしたか……」
ミュールの姿は、フォルビア様にも見えています。
けれど、自身が悪魔に憑かれていること、ミュールが悪魔であることはわからないみたいです。
取りついた悪魔をねじ伏せ、祓い、顕現させる私は、本当に特殊なケースなのでしょう。
ヘレス様が視察の前に少し休むといい、と言ってくれたので、お言葉に甘えてくつろがせていただきました。
人払いをしたお部屋で、ヘレス様と三人、ゆっくりお話をして過ごします。
今回は、他国文化の調査や町並みの視察といった名目でこの国に来ました。
国家間の関係が昔のようなものだったら、こんな風に三人で過ごすことも、正式な許可を得て町を歩くこともなかったでしょう。
「昔の人が僕らを見たらびっくりするだろうね。僕も、ルーカハイト家には感謝しているんだよ。……フォルビアに出会えたのは、関係改善のために尽力した者たちのおかげだ」
目を閉じてそう話すヘレス様。彼の言葉には、愛おしさが滲んでいます。
なんとも思っていない相手のことを話すときに、こんな風にはならないでしょう。
お二人は、いわゆる政略結婚ではありますが……。そこに、確かな気持ちがあることが伝わってきます。
「そうだ、フォルビアに贈りたいものがあるんだ。用意しておくから、帰るとき一緒に持って行ってくれないかな?」
「ああ、もちろん。彼女も喜ぶよ」
ヘレス様と別れ、調査へ。
婚約前後のフォルビア様の様子について、彼に聞いてみましたが……。
悪魔に繋がるような話はありません。
フォルビア様の滞在時、近くにいたであろう人に話を聞いても同じ。
周辺の人々からは、有力な情報を得ることができませんでした。
ですが、これで諦めるわけにはいきません。
私とグラジオ様は、この国で悪魔についての資料を探すことにしました。
今のところ手がかりなしですが、私の気分は悪くはありませんでした。
ヘレス様がフォルビア様を想っていることがわかったからです。
それはグラジオ様も同じようで。
「ヘレスのためにも、早くフォルビアを助けないとな」
「はい。絶対に、お助けしましょう」
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