27 手がかりを求めて、いざ隣国へ。

「もう、16歳……」


 ミュールに取り憑かれてから、1年ほどが経ちました。

 今の私は、16歳。あの悲劇まであと4年しか残っていません。

 自身も悪魔に憑かれたことで、フォルビア様が置かれている状況がわかるようになりましたが……。

 私はまだ、フォルビア様に憑いた悪魔に干渉することができませんでした。


 彼女についた高等悪魔が育っているのがわかります。

 フォルビア様から生まれた感情を食っているのでしょう。

 禍々しさが増し、フォルビア様を言葉で責め立てているのも聞こえてきます。

 最初の頃は、何を言っているのかわかりませんでした。

 今は、内容も聞き取れるほど、私と悪魔、両者の力は増していました。

 フォルビア様に憑いた悪魔は――


『殺せ……リリィベルを殺せ……。殺せ……。全てあの女のせいだ……。殺してしまえばいい』


 と、彼女に囁き続けています。

 他の人と悪魔の関係はわかりませんが……。

 この声は、フォルビア様の精神に強く働きかけているはずです。

 彼女の中で、私への殺意が育っているのは、間違いないでしょう。

 それでも彼女は耐えています。

 加害衝動や憎しみを抑えつけ、明るく優しい「フォルビア・ユーセチア」であり続けています。


 彼女に憑いているのは、私が見てきた中でも最強といえるもの。

 そんな悪魔にそそのかされても耐え続ける彼女の精神力は、賞賛に値するものです。

 常人なら、とっくに凶行に及んでいるでしょう。


 20歳の結婚式で、フォルビア様に刺されないようにする。

 それだけなら、いくらでも対応方法はあります。

 けれど、それでは根本的な解決にはなっていません。

 結婚式を無事に終えたとしても、別の場所、別の相手を選んでナイフを突き刺すかもしれません。

 それに何より……。蝕まれ続けるフォルビア様が、可哀相です。


「早く、なんとかしないと……」


 私は、焦っていました。

 恐らくですが……。フォルビア様は、隣国で悪魔に入り込まれたのだと思います。

 自国で頑張っても、状況が変わらないのなら。

 可能性を求めて、今までとは異なる動きもしてみるべきでしょう。



***



「……フォルビアが、悪魔に?」

「はい。……それも、相当強いものです」


 フォルビア様に高等悪魔が憑いていることは、グラジオ様にも話していませんでした。


「いつからだ?」

「……婚約をして、隣国から帰ってきた、あのときです」

「どうして早く言ってくれなかったんだ」


 グラジオ様が私に向けるものとしては珍しい、強い口調。

 当然です。共通の幼馴染にずっと前から悪魔が憑いていたのに、黙っていたのですから。


「……いや、すまない。君のことだから、理由もなく隠していたわけじゃないよな」

「……なかなか言い出せず、申し訳ありませんでした」


 私は、フォルビア様とグラジオ様の関係が変わるのが嫌でした。

 リリィベル・リーシャンを殺すようそそのかされている。

 そんなことを知れば、いくらグラジオ様でも、フォルビア様を警戒し、態度も変わってしまうでしょう。

 優しい彼女が凶行に及ぶかもしれない、なんて言うのも嫌でした。

 ……けれど、もう、隠しているわけにはいかないと思ったのです。

 彼女を助けるためには、きっと、グラジオ様の力も必要です。


「グラジオ様。フォルビア様を救うために、力をお貸しください」

「……もちろんだ。彼女は、俺の大事な幼馴染でもあるからな。俺に打ち明けたということは、なにか考えがあるんだろう?」

「……はい。フォルビア様が悪魔に憑かれたと思われる場所……。ミルヴァーナ王国の、ヘレス様の領地へ向かおうと考えています」

「そうか。俺がヘレスに話をつけよう。俺も同行するが、構わないな?」

「もちろんです。一緒に、フォルビア様を助けてください」


 こうして、私たちは手がかりを求めて隣国へ向かうことになりました。

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