25 足りない力を、補いたいのなら。

 守護精霊に選ばれた聖女として、私の名は国中に広まりました。

 今では、ルーカハイト領を超えて国の中央まで呼び出されることもあります。

 出張悪魔退治です。


 本日訪れたのは、ルーカハイト家領からそれなりに離れた公爵家。

 なんでも、ある日突然、次男の様子がおかしくなってしまったのだそうです。

 穏やかな人だったのに、今では少し話しかけるだけで怒り狂い、暴力をふるうのだと。

 手がつけられなくなり、地下に閉じ込めるしかなくなってしまったとか。

 多くの相談を受けるうちに、話を聞いた段階で、悪魔憑きかどうか察することができるようになっていました。

 これは、高確率で悪魔案件です。


 暴れる男性と聞いて、グラジオ様も一緒に来てくれました。

 お忙しいはずなのに、危ないと思うと私についてきてくれます。

 グラジオ様が一緒なら、安心して悪魔を祓いに行けます。





「お気をつけて」


 そんな言葉とともに、屋敷の執事が地下室の鍵と扉を開けました。

 グラジオ様が先行して部屋に入り、私は後に続きます。

 ふーふーと息を荒くしながら、私たちを睨みつける、公爵家の次男。

 彼の背後には、黒いモヤ。やはり悪魔です。


「リリィ、どうだ」

「憑いています! 動けないよう、彼を抑えてください!」

「わかった!」


 私の言葉を受けたグラジオ様がぐんと踏み込み、一瞬で間合いを詰めます。

 その勢いに圧倒されたのか、相手は何もできないまま床に叩きつけられてしまいました。

 ぐえっと、苦しそうな声が聞こえます。

 悪魔に憑かれているだけですから、グラジオ様ももちろん手加減していますが……。

 元々が大変お強いので制圧も一瞬ですし、押さえつける力もそれなりです。

 私に被害が出ないよう、グラジオ様も必死なのでしょう。


「……終わったぞ。しっかり押さえておくが、気を付けて近づいてくれ」

「はい」


 安全のため、男性の手ではなく、腹部のあたりに布越しに触れます。

 いつもならこれで退治完了なのですが……。


「っ……!」


 干渉できず、ばちっと弾かれてしまいました。

 手には軽い痛みが走ります。


「どうした?」

「……強い悪魔のようです」


 グラジオ様に補助していただき、次は直接触れにいきます。

 初めのころやっていたように、相手の手にしっかり触れ、目を閉じ、意識を集中させます。

 悪魔のいる空間と、私の意識を接続することができました。

 あとは、殴る蹴るなどすれば終わりのはずなのですが……。

 入り込むことはできたものの、身体が動きません。

 こちらの動きを制限されています。


『悪魔憑きが、なにをしにきた』

「!? 私に話しかけてきた……?」


 頭を抱えてしゃがみこむ男性の周りを漂う、黒い霧。

 それが、徐々に人の形に変わっていきます。

 これが、この人に取り憑いた悪魔なのでしょう。

 ミュール以外の悪魔が話しかけてきたのは、初めてでした。


『おおこれは厄介じゃな。高等悪魔じゃ』

「ミュール!」


 悪魔同士だからでしょうか。

 ミュールもこの空間に入れるようで、いつの間にか、人型になった彼女が私の隣に浮いていました。


「高等、悪魔……」


 フォルビア様に憑いたものほど強力ではなさそうですが……。

 今の私では、簡単に祓うことができない。これが高等悪魔。


「ミュール、祓い方はわかりますか」

『今のおぬしでは無理そうじゃな。じゃが、1つ方法がある』

「なんです!?」

『リリィベル、我に身体を貸せ』

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