24 ミュール視点 何かが、生まれ始めていた。
我は、高等悪魔のミュール様。
じゃが、訳あって、今は守護精霊を名乗っておる。
人間はバカじゃからの。我が見えた奴にそう言えば、簡単に信じおった。
今では、リリィベル・リーシャンが闇を祓う力を手に入れたのは、守護精霊のミュール様に選ばれたからだ、などという話も広まっておる。
我はそこまで言っておらん。人間たちが勝手に作り上げた物語じゃ。
守護精霊のミュールと、精霊に選ばれし聖女・リリィベル。
王侯貴族も、民衆も。そんな話を信じておる。
ただの噂だととらえるには、悪魔を祓った実績がありすぎるからの。
どいつもこいつも、納得のいく筋書きが欲しかったのじゃろう。
リリィベルのことを嫌っておった連中も、守護精霊と聞いて態度を改めおった。
正体のわからない気味の悪い力に、精霊の加護という名前がついただけでこれじゃ。
精霊の怒りを買いたくない連中もおるじゃろう。
『人間は、愚かじゃのう……』
守護精霊・ミュールへの贈り物の山が、それを証明しておる。
中には、家族を助けてくれてありがとう、なんてメッセージを添えている者までいる。
『悪魔にありがとうとはの。本当に頭の弱い……』
我は、リリィベルの身体を乗っ取り、この地を支配するつもりじゃった。
この国の中枢や隣国にも手を伸ばすつもりで、国王や民から絶大な信頼を得ているルーカハイト辺境伯の嫁を狙ったのじゃ。
そんな存在に、ありがとうなどと。なにも知らぬとは、幸せなことじゃな。
この領地を支配するなら、グラジオの奴を選んでもよかった。
しかしあやつ、フォルビアの処刑直前でも、心が折れていなかった。
もちろん悲しみの色は見えたが……。妻と領地を守りきってみせると、前を向いておった。
取り憑くなら、泣いて助けを乞うリリィベルの方が都合がよかったわけじゃ。
まあ結局、暴力でぶっ飛ばされたのじゃが。
猫の姿で顕現し、リリィベルと共にルーカハイト家を進む。
我を見ることができる人間どもが、ミュール様、と崇めてきて、なかなか気分がいい。
「ありがとうございます、ミュール様」
「リリィベル様とともに、この地をお守りください」
「ミュール様」
人々が、我に信頼や笑顔を向ける。
我の正体も、我がやろうとしていたことも知らず。
ミュール様、と、我を呼ぶ。
『ほんっとうに、バカじゃのう……』
我の正体を知ったら、こやつらはどんな顔をするのかの。
嘘つきと罵り、我とリリィベルを消そうとでもするんじゃろうか。
そんなことを考えて、らしくないと頭を振り、貢ぎ物のクッキーを頬張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます