18 太陽みたいに、明るくて。

 悪魔が憑いているかどうかは、相談を受け、その人に触れてみるまでわかりません。

 状況に応じて、悪魔を祓ったり、本人や周辺の人々の話を聞いたり。

 ここ最近は、そういった風に過ごしています。

 悪魔が憑いている確率は低いとはいえ、相談件数が増えれば悪魔を祓う回数も増えます。


 そんな私を心配したグラジオ様は、時間を見つけては私に会いに来てくれます。

 以前は数日に一度は必ず、ぐらいの頻度だったのが、今は毎日毎日、ほんの少しの時間でも私のところへやってきます。


「リリィ。君は大丈夫なのか」

「はい。私自身は、特に変化を感じません」

 

 悪魔を祓うことで身体に影響はないのか、という意味ととり、こう返しました。

 するとグラジオ様は、苦しげに表情を歪ませます。


「悪魔のことだけじゃないんだ。人の話を聞けば、心も体力も消耗する。心の闇やトラブルの話となれば、なおさらだ。1日の相談件数を減らしたほうがいいんじゃないか」

「いえ。これ以上増やすのは難しいかもしれませんが……。減らしはしないでください。みな、誰かに話しを聞いて欲しいのです。それに、放っておけば悪魔に付け込まれる可能性もあります。予防にもなりますから」

「だが……」


 少しの沈黙ののち。


「ミュール。出てこれるか」

『んあ? なんじゃ』


 グラジオ様が、ミュールを呼び出しました。

 私の中で休んでいたミュールがぽんっと音をたてて、姿を現します。

 

「なあ、ミュール。本当に大丈夫なのか? 心身の疲れも心配だが……。悪魔を祓いすぎて、悪い影響が出たりはしないのか? 悪魔の君ならなにかわかるんじゃないか」

『んん……。ならば聞くが、グラジオよ。もし大丈夫じゃなかったとして、この娘が止まると思うかの?』

「それは……」


 グラジオ様は、何も言えなくなってしまいました。


「申し訳ありません。グラジオ様。ですが、私にできることがあるのなら、やりたいのです」

「……そうか。だが、無理はしないでくれ。俺にとって、君は……1番大事な人なんだ」

「……はい。ありがとうございます」



***



 ある日のことでした。

 グラジオ様にお借りしている部屋……相談を受け付けている場所に、フォルビア様がやってきました。

 彼女も、私を心配して様子を見に来てくれたのです。

 逆行前の世界で私とグラジオ様を刺した件がありますから、フォルビア様の動向には注意していましたが……。

 こうしてゆっくりお話しするのは久しぶりでした。

 忙しくて、あまり時間が取れなかったのです。




「みんな、リリィのことを聖女様、って……。リリィはリリィなのに」


 フォルビア様は、友人の私が、リリィベル・リーシャンではなく「聖女」として扱われていることに、大層ご立腹でした。

 みんなリリィに頼りすぎ! とぷんぷんしています。


「私ね、あなたの受け止める優しさも大好きよ。でも、自分のことも大事にして? お願い」

「フォルビア様……」

「話を聞いてくれる人、受け止めてくれる人は、確かに必要だよ。でも、受け止めすぎたら……あなたが疲れちゃう」


 そう言うと、フォルビア様は優しく私の手を取りました。

 悪魔の気配は、感じません。


「でも、リリィのことだから、やめろって言ってもやめてくれないよねえ……。そうだ! リリィが辛いときは、私に話して! 私がリリィの『聖女』になっちゃうんだから!」


 名案だ、とでも言いたげに、フォルビア様は表情を輝かせました。


 フォルビア様は、やっぱり、とても優しいお方。

 本人からはっきり聞いたわけではありませんが、彼女はグラジオ様のことを好いていたはず。

 そのグラジオ様が私と婚約しても、こんなにも真っすぐに、笑顔と優しさ向けてくれるのです。

 たくさんの人を見た後だからこそ、より強く思うのです。

 フォルビア様が、自分の意思であんなことをするはずがない、と。


「私は、リリィのこと、『リリィ』って、呼び続けるからね!」


 きっと、いえ、絶対に。この先、悪魔が彼女に取り憑くのでしょう。

 太陽みたいな、私の親友。絶対に、守ってみせます。処刑など、させるものですか。

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