3枚目-カワル ④


「麻実たち、頼んだものできてるな?」

「はい」

「さて。説明をしたいけど、ええか?そやなぁ‥。カゲロウ襲撃って名前でも付けておこうか」

「はい」

ホログラムが展開され、ゆっくりと説明が始まる。


俺はちょっと緊張した。

自分は岬先輩の力になれてるだろうか。

カゲロウ襲撃に関しては、混乱や状況の悪化を招くかもしれないものだ。

情報は、麻実の手でとても的確にまとめ上げられていた。

俺のギフトのことも、ちゃんと内密にされたまま。

報告が一旦おわり、質疑応答にうつった。


「質問。動物でも生物でもないってどういうこと?」

「ここのシーンでここにあらゆるパターンの頭蓋骨をあてはめてみますが、不可解な点が多いんです」

「どちらかの脳がかけてることになると。それで生物ではないんじゃないかと?」

「本体が不自然に揺らめいていることも、決断材料です。他にもここでは足。ここでは胴体」

「なるほど、それで」

梓は難癖つけることも、わめくこともない。

先輩たちにしてしまったことの自戒もあるだろうけど。

ひたすらに、情報に目を通し、情報をなんとか咀嚼しているようにみえる。

「変に決めつけることはせず、わからないってことにしたってことでいいのかな」

「そういうことです」


俺たちが出したのは、「実際いたが、正体は不明である」という答え。

動物だとすれば、感染病の可能性も考えなければならない。

もし得体のしれないモノなら、ここが異世界である可能性が強まる。

どっちの可能性や、不安を切り捨てないことにし。次の手を提案する。

「そのうえで、周囲の調査をしたいなとおもってます」

「なるほど。俺ら2人でか?」

「そうですね」

「2人でなら、安心ですが。またカゲロウに遭遇したら?それ以上も考えられます」

「竹内は、訓練受けとるやろ?それをちゃんとやれたら、戦力に加わるでええがな」

「あの、待っていてもできることは何かありませんか?」

今の香織の雰囲気は初めて見る。

いつもよりシッカリとしているとみればいいかもしれないが。

なんとか必死にくらいついているようで、心配になる。

素直に聞いていいのかわからない。

俺は役割に徹していたのと、当事者のこともあって、距離もあったかもしれなかったが

そのうち1人でもある香織とは夕食中から、話ができないままだ。


話し合いがおわっても。意図して、隠れているか、距離をとっているかのように。姿が見当たらない。

探しつかれて、気分転換へと足が向く。


屋上の扉を開けると、大量の機械が一か所に並べられている。

「お?誰や?」

「佐山です」

「おーう。ここや。ここ」

機械の隙間から岬先輩をみつけた。

寝そべりながら手をひらひらとあげている。

「こんなにたくさん。先輩、何してるんですか?」

隙間から顔を伺う。先輩は肩眉をあげて、決め顔をした。

「フフフ。なんだと思う?」

自分が見たことがあるものを見つける。

「電鍵があるってことは、通信機ですか?」

「正解。ま、全部だめだったけどな」

「そうですか…」

機械を端に寄せていく。

「なんや、坂巻は一緒じゃなかったんか」

「え?何かあるんですか?」

「あー。今から屋上で飲み会するっていうてて。ほれ。そこの隅」

ドアの下にある買い物袋。

(あぁ。あの時…)

「国民性とはいえ、そろそろ限界なのを察したんちゃうか?」

「国民性ですか」

「俺は、そうやってみとるよ」

「先輩はどういうことを心がけてますか?」

「俺のはあてにならんやろ」

「…そうですね」

「そういや、坂巻と一緒は無理か?」

「ん?そんなことないですよ」

「そうか?なら参加していけや。もうそろそろ来るやろ」

「いや。俺未成―」

―ガチャ

「あれ。ここにいたんだ」

「先に居たのは先輩だけどね」

坂巻は、俺とは違うベクトルで気にしていないようで、俺を見つけたとたんにっこりと笑って見せる。


「あれ、佐山って未成年だよな。だったら、こっちのほうがいいか」

「香織は呼んだんか?」

「あー。呼んだんだけど…」

「駒野さんは来ないそうです」

「…」

香織がイベントに参加しないのは珍しいが。竹内がメンバーにいたとわかっていたら、俺も岬先輩からの御誘いとはいえ部屋に戻ってた。

俺を探していたということは、俺をダシに呼ぶつもりだったのかもしれない。


カンパーイ!!

みんなは飲み始め、俺は炭酸ジュースをもらった。

こうして飲んでいると、学校に遊びに来たみたいだなとおもう。

夜空を見上げるのは久しぶりだ。

この時間の普段とかわらない星空にひとつだけ違和感があるとするならば

「星がよく見えすぎる…」

俺の視力で、あんなに良く見えたっけ…?

機材をもってきていたら確認できたのにな…。

ダメだろうなとは思いながら…いってみるか。

「岬先輩、天体観測の機材ってあったりしますか?」

「あるけど。あー。そうか。そういえば好きだったっけか?歩から聞いたことあるわ」

「機材、貸してくれませんか?」

「かまへんよー。なんかわかることもあるかもしれんし」

「ありがとうございます」

「菊姉!ほらー」

「私はいいよ」

穏やかな会話。ちょっとしたじゃれあいに、心が温かく緩んでいく。

「菊姉と歌か。意外やな」

「そうか?」

「音楽とは無縁つーか」

「えー。ほら、よく聞いてるじゃん」

耳付近を軽くトントンと指す。

そういえば、よく音楽を聴いている。

「俺らのとこだと、無線か耳栓やからなー」

「菊姉って、ゼミどこだっけ」

「声楽ですよ」

「え」

「知らなかった?」

「俺も、初めて知ったんやけど…」

「え。友章。それはなんでも…」

「俺らはほら、ゆっくり知っていけたらええねん。これから長い付き合いだからな」

「長い?」

「2人は、これから死ぬまでずっと一緒。常識だろ」

「ずっと?」

「…俺の事からかってる?」

「いや、全然」

「こいつのせいで、菊姉は、友章の上司になるって話。こんな奇人変人と、ずーーーーっと一緒」

「お前…」

「だって事実だろー?菊姉のこと目をつけて、俺に情報探らせたくせにー」

「だから、そういう意味でじゃなくてな!」


「わかったよ。ただし、声楽ゼミ全員参加」

「やりましたね!」

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