3枚目-カワル ③


「…みんな、やってるし」

忙しいなか、負い目を感じているのは俺も同じ。

香織の体調のメーターをみても、落ち着いてきている。

ここで一度別行動をとったほうが、周りの心象はいいとはおもう。

が、香織の言い方がひっかかる。

「俺は作業に戻るとして、香織は?」

「探す…」

「…分かった」


違和感は、なんだったんだろう。

いつもと何が違ったんだろう。

あんな目に合わせてしまったから?

それにしては、糸がきれたような、飛んで行ってしまうような気がする。

引き留めようとした不安に気づいて。ポケットにしまう。

「じゃあ、いくね」


背中を見送って、俺はしばらく呆っとしていた。

現在地がわからなくなってきた感じがする。

とはいえ、歩みを止めるわけにはいかない。

俺は俺のやれることをやるしかない。


情報訓練室にもどると、麻実が慌ただしく通信している。

楓の不機嫌さもあって、部屋にはちょっとした緊張感がある。

「どうした?」

「それが。あ、いや…」

顔色でわかる。

「隠さないでいいよ」

「香織さんが…。ちょっと、見てもらっていいですか?」

そういいながら、監視カメラの画像をみるように促す。

「ちょっと落ちついてみてくださいね。カメラで見る許可はもらったんで」

カメラに3人の姿がうつっている。香織は必死に頭を下げ続けている。

「射撃部部長室は秘密保持のため…。音声は、ありませんが…」

「これ、香織はなにしてるの?」

「香織さんは、さっきのことは関係なくしてほしい。全員に訓練と、全員が武器を使えるようにしてほしいと」

(隠してただけで梓に何か、言われていたのか?)

「ちなみに。サジットは関係ない、自分の意見。だそうです」

「それが逆にあやしいよね」

「言われてないって本人は言ってた」

楓は、不機嫌を隠そうともしない。

さっきあったことを軽く説明した。

2人の顔色がわかりやすいように変わった。

それでも、香織と梓のつながりは消えることは考えられないという。

「恒元梓という人間は、そういうことをしてでも佐山君を騙そうとするよ」と譲らない。

香織が編入してから、梓と関わりのない時間など無いから仕方ない。

「菊姉さんたちは、どうするって?」

「武器を持たせるにしても、時間をもっとあけたい考えているみたいです」

「そりゃそうよね」

「早めるわけには、いかないんだよね?」

「その痣のことわすれたの?」

「すぐには無理ですね」

…忘れてた。ずきずきといたむのは、心じゃない。

「距離を取ろうと思ってはいるみたいなんですけど。これじゃあ、訓練もできなさそうですね」

(それは困るな…)

「で、俺にどうしたらいいかって感じかな?」

「そうですね。こういう時の香織さんは、どう対応したらいいですかね」

「このパターンにはいったら頑なだよ」

「はぁ?一番最悪。他の人の訓練の邪魔してること、自覚してもらうしかないんじゃない?」

「厳しい見方だけど、それしかないかもしれない」

「珍しい…」

「だって、実際、俺だって訓練受ける方だし」

「まぁ…。そりゃそうか…」

「こういう時は、私情を挟みたくはない」

「じゃあ。佐山君だったら、なんて言いますか?」

「俺だったらっていうよりは、伝言みたいに伝えれる?」

「できますけど」

「香織に。無茶は言わないようにすることは優先して伝えてほしい。そうすれば少し聞く耳を持つとおもう」

「なるほど」

「2人には、連絡手段を何か使えるようにしてほしい」

「無線のことですか?」

「うん、なんかあったときに、スイッチおせば駆け付けることはできるだろ?」

「居場所まではわからないので、位置情報をおくれるものがいいですよね…?とりあえず提案してきます…」

麻実は、無線で2人に連絡をとった。

しばらく画面をみていると、2人の考える様子をみるように、香織は顔を上げ、退室していった。

「うまくはいったみたいです」

「あぁ。ここにきてから気疲れすごいわ…。愚痴も相談も気軽にできやしない…」

そうか。香織への違和感は、俺に相談してないから…か。

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