3枚目-カワル ②


「だめだよ、佐山君」

「え」

「一生懸命やってくれてるのに…、あんな風に言ったらだめだよ…」

「…そうだね」

菊姉のいう「なおせ」というものに似たようなことを香織が思っていたとして。

それが、嫌悪感だったら―…。

「気を付けるよ」

「よかった…。私たちって、どうなるのかな」

「分からないけど、救助はこないかもしれない。

「…。そうだね。人の気配が全くないね…」


災害や戦争が起きて巻き込まれたとすれば、救助や救助。取材で騒がしいはずだが。

なにもなかったとしても、日常がここにはなく。不気味さだけが漂っている。


「そっちの資料整理の調子はどう?」

「ん?何とかなりそうかな」

「あの、襲ってきたのはえっと…」

「カゲロウのこと??」

「そう。カゲロウ。どんな動物だったの?」

「…動物(生き物)ではなさそうってことかな」

「どういうこと?」

「詳しくは夕飯終わってから軽く話があるんだろうけど…。なんだろうなぁ。生物じゃないかもしれない」

「生物じゃないって何…?」

「ごめん、ちゃんと説明会を待てばよかった」

「あ、ううん。違うの。説明してくれたことは、嬉しいんだよ?」

「そっか」

「逆に言ってくれなかったら―…。だからほっとしてる」


あの日の話の続きをしたいのだろうが…。さっき核心した事と繋げて考えると、その話は避けておきたい。

校舎は安全だと思ってた。でも、ここにも、安心はない。

こんな時だから、みんな協力的になると思ってた。

でも。やっぱり、分かり合えないやつらもいる。

距離をとれればいいのに、軽い関係性が、邪魔に思えてくる。


いや、俺も迂闊だったんだ。

カメラが届く範囲といえ、無責任に離れてしまった。

香織たちはカメラのことを知らないが、再発防止は考えなきゃならない。

それに、向こうからの合図なんかもあってもよかった。

それを香織が使えてれば―。

ヘリオスの3人に頼れば楽かもしれないが…。

変に負担をかけることにも、限界もあるだろう。

さっき香織にいわれたように3人は、精一杯動いてくれている。


(―…そういえば)

梓と坂巻は、香織を遠ざけて何を話したかったのだろう。

香織がいてはならない理由が分からない。

梓に敵意を向けていない香織を、取り込んだ方が楽だというのに…。

まてよ。違和感がある。

坂巻のほうが…。

梓が話しかけたことばかり考えていたけれど、逆なんじゃないか?

(でも―。坂巻が、香織を遠ざけたい理由なんて坂巻にあるのか?)

なにか、香織にはショックな事があったとか?

いや、俺たちと出かけてたから、フォローしていたのかも。

じゃあ、あの時に坂巻が何か見たことを伝えたのか?

言い方を考えればいいだけで…、外にまで追い出す必要があるんだろうか…。

(どこかのカメラに音声会話は入っているだろうか)

でもそれを聞いたとして、俺はとっても卑怯なことを考えているんじゃないだろうか。

これじゃまるでプライベートがないし、この輪を乱しているのは俺になる…。

でも、そうでもしないと、証拠がないとかわされるだろうな…。


「ルクスの制服ってさ、すごい重いんだね」

見かねたように、話の主導権を握られる。

「え…あ。そうなんだ」

「プライドに、重さと温かさがある感じ…かな。立ってると、背中を軽く押されてるようで、背筋が伸びるんだよね」

「だから、菊姉を止めなかった…?」

「あはは…」

恥ずかしそうに笑う。

「そうだね、守られている感じがした」

「菊姉が男性だったなら、香織を取られていたかもしれないな」

菊姉なら―、岬先輩なら―もっと、広く視界を持つだろう。

私情を交えることなく。

もっと、客観的に。もっと俯瞰的に…。

そのためには、俺はどうあるべきだ?

俺は、どうやったら香織を守れる―?

全体の方針が決めるまでは、動きたくない。

2人の基盤は不安定でも、現状維持しかないのか?

だめだ。どうしても感情が軸になる。


連絡用に持たされた端末が鳴る。

『佐山君へ、聞こえてますかー?』

『聞こえてる。なんかあった?』

『いえ、武器練習の準備がもう少しかかるそうです。それまで、もう少し作業を手伝ってもらえますか?』

『了解。もう少ししたら向かうよ』

『話は聞いてます。ゆっくりしていいですよ』


「それ、どうしたの?」

「あぁ。ヘリオス専用端末だよ。敷地内ならうごかせるんだ。無線だとどうも慣れなくて」

「一般の端末は、動かないのかな…」

「どうだろう…。俺も情報室出る時に連絡できないと困るって持たせてもらっただけで…。言ったら貸してもらえるとおもうけど」

「佐山君」

「ん?」

「―戻ろ?」

「え…?」

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