3枚目 カワル
3枚目-カワル
あれから2時間ほど。集中力の限界だ。
施設をでて、購買に向かう。
(好みを聞くの忘れたな。糖分と、飲み物を数種類買っておこう…)
生徒会を中心とすれば、サジットやヘリオスの取りまとめもうまくいくと思ったが。
(切り替えたいし。外からいくか…)
ひんやりとした空気を全身で感じる。
枯葉も増えてきた。
(そろそろ掃除とかもしたほうがいいんだろうな。風邪ひくわけにはいかないし…)
決まり事を整理もしておこう。
ホールでの模造銃のこと。
あれをみるに、梓に実権をもたせたくない。。
志願者での自警団の練習がどれほどになるかわからないが、無いよりはマシ。
生徒会としては、なるべく補助にまわる。
あー…それだと梓との関わりが…。
頭を強くかきむしる。
それは、香織のことを考えるとあまり選びたくはない。
俺にも限界がくるだろうし。
(今のままいい距離感を保ちながら…。余計な問題を起こさずに…)
「あれ。佐山君だ」
「香織」
「へへ。似合ってる?」
ルクスのケープは、隣にいる菊姉のものだろう。
香織には丈が長く、引きずっていることが気になったが、目くばせを受け取った。
「大人に見える」
「香織は、大人だよ」
…そうだった。
「似合ってる」
改めて口にすると、香織は照れて笑う。
その唇が、青白いのが気になる。
「プライドを簡単に貸せるのね。やっすーい」
梓が嫌味たっぷりに言うが、菊姉は反応せず、商品をとってセルフレジを通す。
「待ちなさいよ」
「何?」
「ケープ、貸せるものじゃないでしょ!?」
「…服なんて、いくら貸してもかまわないよ」
「ただの候補生なら言わないけど。あんたは―」
「ルクスだから?」
「そうよ」
「香織。ちゃんと言うけど、いい?」
「うん…」
「香織は外にいて、体芯まで冷えていたから服を貸しただけ」
枯葉を思い出す。だから顔色が…。
この温度で、あんなに変色するまで、何時間いたんだ…?
「…梓。説明してくれ」
「購買の倉庫が思ったよりも広くて、乱雑だったから、外側から在庫の確認をお願いしただけよ」
「それだけでコートも持たせず外に?」
倉庫前には、作業うようのコートがいくつもかけられている。
「あー、俺からもー。恒元さんを擁護する形になっちゃうけど」
「坂巻…」
「この狭い通路で3人作業するのは、ちょっと無理があってさ。俺がいこうか?っていったんだけど、駒野さんがやってくれることになったんだよ。ね?駒野さん」
「…うん」
どことなく歯切れが悪い。
菊姉も、同じようなことを考えているようにみえた。
梓がいう、倉庫が広いこととと。坂巻がいう、3人での作業に向いていない通路の狭さというズレに、違和感。
しかし、ここで追っても、こじれるだけか。
「今度からは、ちゃんと思いやりを持って動いてくれ」
「わるいわるい。悪かったー」
「菊姉。香織を暖かいところで休ませたい」
「作業は?」
「無理だろ」
「…梓、坂巻君。ここに人手が必要であれば、何人か回すけど」
「いや、俺がいったとおり、人数増えると大変だとおもうから2人でやるよ。ありがとうね」
こっちは、殴りたい気持ちを抑えているのに、温和におわらせたいようだ。
香織の体温のまったくない手を握り。離れないほうがよかったと後悔した。
風邪をひいたとして、薬は足りるだろうか。休むなら教室以外がいい。
医師を目指している人はいたか?
そもそも、健康管理の機械は正常に動いていただろうか。
「ここをつかって。飲み物はそこ。ずっとシステムが体調の記録をとってくれる」
「プラグとかは?」
「必要ない。最先端の医療機器で熱・心拍数・呼吸度合いとかデータとれる。今は軽く―」
「香織。なにがあった?何言われた?」
香織は菊姉をみる。
「私は、出ていこうか?」
「ううん。居て…もらっていい…。助けてもらったし…」
香織は弱くいうと、ゆっくりと深呼吸をした。
「私には、よくわからないの…。ただ2人だけで話をしたいみたいだった」
「香織には知られたくない事みたいなこと?」
「そんな感じかな…」
「佐山。とってあげて」
機械が持ってきたのは、ブランケットに、暖かい飲み物を2人分。
ん?2人分…?
香織は、ゆっくりと飲みだした。頬にも血色がもどってきたようだ。
(よかった)
「香織。佐山をちょっと借りる」
「ん?なんだよ」
「香織のことになると視野が狭くなるのは、直そう」
「…あれは、梓と坂巻が悪いだろ」
「そうだね」
深いため息をついて、厳しい目になる。
「その一言で十分だよ」
あぁ。手の冷たさに自分の冷静なものまで奪われていたみたいだ。
しかし―。
「その癖は直せ」
「何度も言わなくても」
「生徒会を立て直して、そこで意見をまとめたい。そう思ってた。違う?」
「無理だったけど」
「そうだろうね。あの場にいる人間関係の根底にもう絡まってる。一気に解こうとするのは無理だよ」
「部外者だから言えるんだろ」
「違う。部外者だから見える」
「被害うけてるんだ」
「被害をうけたからって、頭に血が上ってたらなんもできない」
その通りではある。頭と体、心はバラバラだ。
「何度でもいう。香織が巻き込まれても、視野を保て」
「約束はできない。努力はする」
「自分が言われたときもちゃんと対応しな」
「そうだな。言ってるだけだったらだめだよな…でも、まだモヤモヤしてる」
「今すぐにどうのこうのは難しいだろうから、一旦佐山も休みな」
「そうする」
「情報のほうには無線いれとく。ここはしばらくカメラ止めるし。鍵もかけとく。出る時はあそこから私を呼び出せばいい」
「俺も端末もらってるから、連絡ははいる…」
「わかった伝えておく」
菊姉は、香織からのお礼も軽く返すと。扉を閉めた。
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