2枚目-キエル ⑩


講習かとおもったら、画像解析に回され、気が抜けた。

実際に感じたこと、見たことが重要になるといわれたら、断れない、なにより―。

「経験者…多かったな」

「…私も、初めて知ったけど。さっき話して。納得した。和臣くん、竹内君とは友達だったんだね。知ってた?」

「いや」

「まぁ、話してくれてなかったってのが、ショックじゃないといえばウソだけど」

「須賀さんはあまり話したことがなかったけど。結構しっかりしてるんだね」

「いや、麻実のほうが、切り替えスイッチすごいでしょ」

「まぁ…しっかりしないとって思ってるからかな」

「経験者を集めて何してるんだろう」

「ライセンスだけじゃ、わからないこともありますからね」

「筆記とか、1人でうけるものがあるかとおもってた」

「一応。部外の人だし。1人にすることができないかな…」

そういえば、そうだ。変にプライド張ってる場合じゃない。

経験者と素人の差はしっかりあるわけだ。

「さてー。ここが情報訓練室。で、これがカードね。1週間ごとに更新するので」

「そういえばさ、おなかヒビは入ってなさそう?」

やっぱりバレてた。

「大丈夫っぽい。パーソナルの方もちゃんと見たし。あー…。痣はできてたよ。溝尾ちょっとずれたところ」

「あそこでちゃんと言うべきだと思うけどね」

「わかる人がいるのに、庇うのは、佐山君らしいけど」

「ごめん、あそこで言ったら…。多分香織が―」

「わかるけど…。駒野さんには、無事だよって押し通したい気持ち」

苦笑いに隠れる本音がちらついている。

「―…あ、うーん。噂がね…」

あの朝の状況とはちがう。

「元でもクラントルや、サジット派が関わってれば裏切り行為もないでしょう?」

そして梓の言葉は、まるで反省していないと思われているだろう。

注意人物の括りとされても、あたりまえだ。

火を見るよりも明らか―。現場に居合わせ、目撃したという証拠。

それぞれ思うこと、感じることも違うだろう。

完全に排他しないとこは、配慮されているとはおもうが。

別行動をしている香織、梓、坂巻を監視カメラで追っていることも事実。

模造の件も、わかりやすくしたといえば、聞こえはいいが、やりすぎだとは思う。

言葉で説明できれば、納得できればよかったはず…無理か。

あの状況で数人に言葉は届いていなかった。

手にしたからこそ、慎重になることが大事だった。

とくに、梓は、菊姉に銃口をむけていた。本物なら取り返しのつかないことになっていた。


機器に電源がはいっていく特有の低い音と、電子音。

「それにしても、やっぱお金かかってるよねー」

「岬さんが、直談判したのがほとんどかな。情報部の子とも仲いいし」

「先輩って、機械にも詳しいんですか?」

「全般的に別格ですねー」

「変人なのよ」

「私よりももっと知ってるはずなのに」

「うっさーい」

岬先輩と楓が付き合っていたと…なんとなく聞いたことがある。

生徒会やってたのに、皆のこと知らなさすぎだな…。

「楓さんは、情報得意なの?」

「楓でいいよ。情報というより、加工処理とか、デザインかな。

将来やりたいことやれそうにしてるだけで。麻実みたいに、文武両道を地で行く器用なミデンじゃないよ」

「SNSとかだとすっごい有名だし、今度本だすのにー」

「本!?」

「ミデンの中に、この専門の人が少ないだけ」

謙遜。それとも照れ隠しか。

わかったことは、思っていたよりも話しやすい人だ。

「よし。全部つかえるみたい。とりあえず、佐山君が直接みたものと、画面での情報を共有から始めますか」

岬先輩からの、メモを片手に見返す。

麻実は眼鏡をかけると、いくつかホログラムを展開した。

「あ、俺にやらせてくれない?」

「いいんですか?」

「うん、やらせてほしい」

俺に3枚ほど入力画面を回してきた。

「…どうぞ。本当に、大丈夫?」

そうか。麻実はその道のプロだもんな。俺のことも知ってる部分もあるだろう。

「やりたいんだ」

「…何?」

「あとで説明する」


席にすわり、機器を身に着け。深く深呼吸をする。

同期。同調。接続。安定を確認。

すこし使いづらいところは、カスタマイズ。

それをしている間に、ツールの整理をしよう。

2人にも作業をみせたほうがいいかもしれないな。外部ディスプレイを展開。

—用意ができた。

動画を大きく三分割。調査・遭遇・対処にわけて…。

毛並みのようなものが、顔に見えたところに重点を置きたい。メモ。

こっちは、記録に回ってたところ。回しっぱなしだったから字幕をつける。今回は、カット処理はしないでおく。

カゲロウが動き出したところ。区切りにマーク。ここはアップでもみれるようにしたほうがいい。画質はあとで分担してやるとして感じたこともメモ。

ここで飛び出して唸り始める。チャプター名前でもわかりやすくしておこう。

資料にするならアルファベットで区切ってあとで相談。それぞれに付箋的にメモをつける。

目では、どうしても追いきれないところや、素直に書き出す。

言われた通りの注目してたところ。あとは感じたところもかいておくか。

ありえないと少しでも思ってしまったり、焦り、驚きは省いてしまいがちだけれど、何かにつながるかもしれない。

加工するタイミングもなかったこの映像は嘘をつかない。


【ほぼ作業終わりました。話し合いながら、休憩をとりましょう】


グラスをはずし、体の筋肉を緩め、機器をはずす。

「はぁー…」

「いや、なにあのやり方…」

「えっと…」

「ギフトのことだと思うよ」

「あぁ…。気持ち悪かった?」

「無理してないかってこと!3画面同時なんてミデンでもそうそういないから!!」

「そうだね、疲れるから生徒会ではやってなかったらんだ。でも、さっきも言った通り、護られる側ではもういたくないんだ。だからできることはする」

ギフトっていうけど、生まれつきのギフトのことではない。

小学生になるころ。2つの適正テストをうけることになる。

スキルチャレンジと、スターチャートチャレンジというものだ。

これは、サジット派だろうとヘリオス派であろうと、関係なく受けることになる。

スキルチャレンジは、自分の好きなことを中心に知識欲や適正を明確化する。

スターチャートチャレンジは、苦手、嫌いなことも含めた能力値を診断、数値化するもの。

ある程度までの適正数値を上回ると“星のギフトを持つ子”とされ。適正をさらに強化する訓練をうけることができる。俺のギフトもそれで習得できたものだ。

子供のころには、特別な催し物くらいの感覚だが。大人になって「振るいにでもかけられてるんじゃないか」と思わずにはいられないものだ。

唖然とする楓に、パーソナルAIを起動し。

筋肉、心拍数、できるかぎりすべての数値をだし、みせる。

「ほら、どこも異常ないよ」

「…駒野さんにギフトのことは?」

「言ってない。観察力があるって認識でいる」

「はぁ。どうりで止められてないはずだわ」

「止める…?なんで?」

「心配してくれてるんだよ」

「心配か…」

「かなりの負担かかってるのに、無自覚なんだもんなぁ」

「情報だけは知ってたけど。2時間強の動画のカット。加えてメモ添付。全体何時間もの映像を、ほぼ同時に認識把握。簡単な動画処理を10分未満でするのは、

すごいですよ」

ギフトを開いているとき、傍からみていたらどんな風にみえるのだろうか。

知ってるのは、家族と、バーチャル空間の昔の親友2人くらいだもんな…。

「香織にはいえないな…」

「ご家族からの要望が添えられているんですが。過去ギフト開いている最中になにかあったって考えていいのかな」

「…そうだね。たまに無意識にギフトを開いているときがあったんだ。入力じゃなくて、集中とか考え事のほうだけど。我にかえるときにその前後のことを忘れるんだ」

「ちっとも覚えてないってこと?」

「日常生活にちょっと不便を感じる程度だけど」

「じゃあ、今もダメだったんじゃ?」

「いや、全然戻ってこれないとかじゃないんだよ。というより、今回は俺が開いたし」

「周りのフォロー、自分が望む状態であれば、許可はでてるね…」

星のギフトの弊害に苦しんでいるのは、俺だけじゃない。

だから、適正があってもミデンにいかない、いけない人もいる。

俺はいかない方と決めた方だったが、勧誘が多すぎて要望所をだすことにした。

…たぶん軍からして、使えるギフトだったら、簡単にはいかないだろうとはおもったが、要望をだしてからは、ぱったりと止まった。

「はぁーーー。情報のギフト持ちに、情報得意?っていわれてのか…嫌味ですかー?」

「違うよ。化粧?コスメ?とかのほうが得意そうにみられない?人より気を使っているというかさ…」

「嫌味は感じられなかったよ。じゃあ早速、作ってもらったものから話し合いをしましょうか。あ、佐山君もし疲れていたら…」

「大丈夫。休憩しながらみるし、本作業にはいるまえに休憩とれれば」

「了解です 権限は、私に戻しますね」


大きな画面で動画が再生される。

「あー。メモにもあるけど、こいつ気持ち悪いね」

「生命っぽい“なにか”が欠けてる…うん、確かに」

「何か……か」

「曖昧というか…」

「一番近そうな、骨格をあてはめてみてもらっていい?」

「はい、入れてみますね。―…。あー。ほんとだ。これだと、顎骨が削れてるようになりますね」

「その次の場面は、頭蓋骨らへんが欠けてる」

「…カゲロウかネーミングぴったりです」

「Xとかαでいいじゃん」

「…今後も別種が出たときのことを考えたんじゃないでしょうか…」

「…」

「次のところ、足元にアップしてください」

「…すり抜けたね」

共有化することで恐怖や謎で強張ったものも、ほぐれつつある。

「ここから菊姉がきて、ふっとばします。風圧には抗えないみたいです」

「謎すぎ」

「距離計算…。結構吹っ飛んだね…。威力がどれくらいかわかるようにアプローチもできるかな?」

「菊姉に武器のこと聞いておきます」

「あとは…ここと、ここ。ここも。影すらないけど。すぐ戻る感じだね」

「おっけー」

「2人がしてるこれってなに?」

「合図というか、会話ですねー」

「話せる距離にいるのに?」

「2人は、足音に集中してるんだとおもいます。3人がどれだけ離れたかとか。別の気配はないかとか」

「ハンドサインの意味だしてもらっていい?」

「わかりました」


【3人撤退開始 距離を保て 厳重警戒 発砲許可】

【了解 我らの撤退ルートの指示を願う】

【了解 撤退方法は住宅街を使う。障害物も活用対象を翻弄し 撤退物品回収有】

【了解 撤退完了地点は 敷地内でいいか?】

【了解 注意点 門は閉めてきたため、飛び越える必要有がある】

【了解 3人が飛び越える時間を足す】

【了解 風力砲、強めに撃つのが作戦開始の合図】

【了解 最終確認 作戦 時間稼ぎの撤退 直線ではなく、この住宅街1ブロックをぐるりとつかうルート。物品回収完了。撤退完了地点校門敷地内側 カウント後、風力砲を合図に作戦開始】

【了解 確認 相違なし】

【了解 撤退完了の想定時間。カウント 開始】

【撃て】


「自動翻訳かけて…、堅苦しい軍用語だけだとよくわからないと、この2人だけ特有のサインもあるんですが―

なるべく会話風に翻訳させてもらって。こんな感じ」

「うわー…。いく?いかないとかだけじゃなくて?」

「相手が未知の存在だから、特に長くコミュニケーションとってるんじゃないかな」

「これさ、部長会議のときもこんな感じあるけど、こうやって喋ってるってこと?」

「あー、あれは手話のほうかな。たまに、ヘリオス言語で喋ってることだよね」

「その場合は、声にだせばいいんじゃないの?」

「やり取り内容は主に梓ちゃんの今日の機嫌とか。他の部へのフォローの入り方や要請がきてる場合とか。…まぁ本人や周りに聞かれるとね」

「あー。なるほど…。それで2人だけのサインみたいなのもあるのか…」

「あの2人なりに、めんどくさいことは避けたいからね…。でも、聞けばちゃんと答えてくれるよ」

「これ銃声拾えてない?」

「サイレンサーだね。この小さい音がそう。渡された中にあったんでしょうね」

「銃声きこえてたら振り向いてたな…」

「ここは解析用につけっぱってことですからね。うん…。カゲロウに向けながら走ってるからそうっぽいです。なにか拾えればいいんですが…」

しばらく画面にくぎ付けになる。

「はー。体術すっごー…。こういう映像教本だしてほしいな」

「それこそ言ってみたらいいじゃない」

「ルクスは大会や模擬戦。発表会がおおいので、ちょっと引けちゃいますね」

「この地区だとルクスは、2人だけなんだっけ?」

「頭脳や技術だけじゃない。才能と戦力兼ね備えないと、ルクスになれないし。降格もある厳しい世界なんだよ」

「“強い光には影もつきものである”」

「それは…ね!今は、おいておこう!」

「…じゃあとりあえず、ツールは何が入ってるのかなーっと」

「佐山君は、休憩してね」

「そこでみてなさいよ、佐山ーー!!」

「あはは。あ、フィルターかける癖は気を付けてね」

「ぐぅ…」

明るい会話に作業に移る2人の姿が、うまくいってた生徒会のことを思い出させる。

嫌味も愚痴も明るく交わしあい。ひとつひとつのりこえてうまくいっていた頃は、本当に楽しかったのに。

「生徒会、楽しかったよな」

口をついて出た言葉に驚くが、2人とも受け止めてくれている。

「そうね」

「別の方法ってなかったのかな」

「それはさ。佐山くんが重く受け止めるところじゃないと思う」

「一緒に辞めちゃえばよかったのよ」

「佐山君にはできないでしょ。次の生徒会メンバーでもあるし。次の生徒会長が駒野さんだから抜けなかったんですよね」

温度差が明白になっていくが諦めたくない。これが一つ解決するだけで、皆の負担も楽になるはずだ。

「あのさ…今更だけど、最後に戻る気はない?」

「梓があのままだったら、戻る気にはなれないでしょ」

「こうやって、作業とかは手伝えるじゃだめ?」

「いや、そういう資料のことぬき」

「なんでー?」

「今回の調査の件でさ。生徒会として俺が出たことで、サジットとヘリオスの言い合いが消えただろ?無駄な言い争いはもう起こしたくないから、力を貸してほしい」

「とはいってもなぁ。今回もヘリオスの手の中っつーか…。―ね?」

「抜けちゃったあとで、そういう言葉を貰うのとっても嬉しいけど…あの頃みたいにイライラ過ごしたくない…かな」

「私も…もういやだな。この状況がいつまで続くかわからないし。ごめんね」

「香織と俺が中心になってもかな…」

「駒野さんがもう少し頼れたらいいかもだけど、今は嫌かなー…」

「今のまま…。やれる人がやれることをやっていければ、まずはいいかなって思います」

2人の顔色が強張ってしまっているし、梓か香織の意向を俺がつたえてるとも捉えてしまうかもしれない。

続けて説得にいはいるのは、関係が悪化してしまう可能性が高い。無理だ。

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