2枚目-キエル ⑨


映像への反応は、さまざまだったが。奇妙なものをみているということは共通しているようだ。

「映像はこれで全部。痕跡はあるが人はいない。銃声がきこえても飛び出た人もいないし。悲鳴もない。このことから、いないと考えていいと思います」

「せやな…。…うーん。名前をいったんこの狼の呼称をカゲロウとでもするか。カゲロウは、弾があたらない。今回は、風力で吹き飛ばせたが。敵意がめちゃめちゃ高い。どういうわけか、学校の敷地には入れないらしい。このことから、不用意に外に出ないようにした方がええと思う」

「俺からも、動画に残っちゃってるから、説明する!!コンビニでこれだけ買ってきた。途中で何個か落としちまった。はは」

坂巻はすこしやぶれてしまった袋をみせた。

「ごめん、待って…。私ちょっと―いや、全然追いつけない」

「わかるところだけで、ええとおもう」

「私は気味が悪いとしか、おもえないんだけど」

「それでええんちゃうか?外が危険だとわかっただけでも、行動の方法を考えることができる。手当は終わったか?」

「あ、はい、すみません。僕たちでなにかできないかって提案したばかりに」

俺らは、切り傷。走った際の軽い捻挫などで済んだ。

「竹内くんのせいじゃないよ」

「そうよ。きちんと守り切らなかったヘリオス側の責任です!!」

「恒元さん、頭大丈夫?友章たちいなかったら、だめだったとおもうけど?」

「だめって?」

「死んでたってことだよ」

「坂巻」

「だって外に行ってみたいって言ったのは、俺。竹内に小石さんだ。身近では友章が。小石さんは屋上から応戦してくれたし。意識戻ってすぐの菊原さんまできてくれただろ?これって、ヘリオス側に非があることになる?」

「言い出したうちの小石さんがヘリオス側の人間です。そそのかされたんじゃないですか?」

「は?」

「いくらなんでもそれは」

「その中でこんな騒ぎになるような危険なことを起こしたのは、俺だよ」

「佐山…」

「カメラには映ってないけど。言い出した3人や、ヘリオス側を責めるなら、生徒会からの俺にも責任があるはずなのが道理だろ?それに、外にでる意見に何度も考えるように言っていたのは岬先輩だ。梓は、メンバーに不満があっただけだったよな」

梓の行動まで、いい加減にしてくれといいそうだ。

梓は俺を睨み、押し黙った。今は、嘘でも梓を庇うことをしないほうがいい。

「そうね。そしたら加わろうとした私にも責任はある。責任は、最後までちゃんと抱えることにしようよ。解像度と入力情報などの整理とか。こっちにも解析するやつまわしてもらえる?」

「はい。デバイスで…。あぁ、一般型のデバイスでみれるように変換したら…いや、情報量が大きすぎますね」

「エオス系のIDもってないんだよね…」

「施設の使用許可をだせるか?菊姉」

「講習でもつかってる情報室ならいいんじゃないかと思う」

「では、手配しておきます」

「先生も、組織の上にも連絡とれないのに。自由にしたらいいと思うんだけど」

「いんやー。不測の事態でこそルールを守る。だから自分たちのできる範囲では、いつも通りのことをする。せやから」

「ん?」

踵を鳴らし、スっと頭を下げた。

「武器の携帯許可の承認を―」

「あー…」

菊姉は渋い顔をして、考え込んだ。

「この場じゃなくても…とも思うんやけど…、みんなの前であえてな」

「ごめんなさい、ちょっと教えてほしいんですけど。軍人は、許可なくても持ってもいいのでは?とくにお二人は、ルクスでしょう?」

「すまんな、まだ候補生や」

「正式に軍人ではない。でしたね」

「もうちょっと詳しく教えてくれますか?香織がついていけてない」

「ご、ごめんなさい」

「本来は、アリア・ヘリオスっていう組織を一括でヘリオスっていうやろ」

「うん、テレビでみたことある」

「ヘリオスには、アリア・エオスっていう軍がある。俺らはそこの候補生。見習い。特徴は、前に麻実がホールで、データみせてくれたやろ?バッジとか、ケープとかな?」

「うん。純白の制服のやつだよね」

「正式な軍人でもそうやけど。武器に関して施設から持ち出す際、許可をとらなあかん。俺は学生やで、先生になるな。でも、先生おらんやろ?本部にもつながらん。大人からの許可はもらえない。消去法でいって、次に武器の携帯と使用の許可をだせるのが、部長である菊姉」

「責任者というと…そうなりますね」

「もし、サジットにも養成所があったとしたら。サジットのクラントル軍もそういう流れになるとおもうで」

「クラントルは、養成所なくても優秀な人材ばかりなので。それで?許可はおりるのよね?」

「全員のデータみたことがあるけど…。この中で、銃器ライセンスある人で、提出できる人は挙手してもらえる?」

岬先輩。麻実が手を挙げ、ライセンスを提示した。

「この2人はそれぞれの一番得意とするもの1つを携帯。有事には使用を許可する」

「はぁ?待ってよ。私たちは?あんなやつが、校舎の中にはいってきたらなんにもないんだけど!どうすればいいのよ」

「―…麻実、頼んでたの持ってきてもらえる?」

「本当に、いいんですか?」

「うん」

黒いケースを俺たちの前に置いた。

「みなさんへの支給武器です。先ほど、菊姉さんからたのまれて人数分あります。強制ではないので、手にとらなくても大丈夫ですよ」

俺はとてもじゃないけど、触る気になれなかった。

坂巻はめずらしそうに、かつ慎重にさわり。

竹内は重さに驚いて、丁寧にあつかっている。

香織は銃口からなかをのぞいたり、重さを確認したり、色々と細かいところまできになるようだ。

楓は手に取ったものの、身震いをして、少し乱暴に元に戻した。

持たなかったのは、俺と須賀だけのようだ。

そんななか、梓は手に持ち、構え。銃口を全員に流すように向け、菊姉で止めた。

「引き金を引かなければ、大丈夫じゃない。重さには慣れが必要かもしれないけど。これなら、自分のことを守れる。いいじゃない。バーン」

菊姉は、顔色ひとつ、眉ひとつ動かさないが、強いて形用をするなら、哀れみに近い顔にみえた。

「梓。みんなに武器を持たせることが無理なこと、証明してくれてありがとう」

「は?」

前に出てきた岬先輩は、怒りに震えてる。

「お前、俺らに向けたな!?」

「引き金はひいてないじゃない。ほら」

「ゆっくりみてみよか?な?まず、自分の指みてみ。トリガー触っとんねん」

「だってこう持つものでしょう?」

「発射するときはな!!!」

そういうと、岬先輩は梓にむかって、椅子を思い切り蹴りあげた。

ものすごい音をたてる椅子などの音の中で、俺はところどころでなるカチっという音を拾い、構えた。

香織は手に拳銃をもったまま俺の正面に飛び込んできた。腹部の痛みに背筋が凍った。

「あれ…平気…だ」

「でもさっき俺は弾いれたけど…」

「支給品と嘘つきすみません。それは精巧につくられた模造銃です」

「ビビった…」

「自分の体って、100%自分の思い通りで動かしていそうで、そうでないんだわ。今みたいに驚いても、指に力入って動いたやろ」

「…あぁ。俺も引いちゃってますね…」

「なぁ、梓。…放心状態みたいだが。お前の指どうなってんか、自分で言ってもらってええか?」

すぐに背に隠したが、全員それを見ていた。梓の指はトリガーを引いていた。その時、銃口は、菊姉に向いていた。

他も、耳の横だったり、抱え込むようにしたり…。

銃口を考えていたら、大惨事になるとこだった。

「驚いただけ…!!驚かす方が!!!岬さんが悪い!!!」

「銃を手にしてる時は、緊迫状態だとおもうんだが?」

「…そうですよね。こちらから攻撃をしかける必要はないですから…」

「そんな緊張状態のとこ、かけつけてくれたやつがいたとして。そいつを撃ったとしたら?」

「それは…。でもこれは模造だって!!」

「模造だからセーフどうこうちゃうねん!!梓、言われるまで本物として扱ってたやろ!?それが模造品だからええやんかなんて、無責任とちゃうか!?」

「それはほら…。だって…」

「本物だったら、菊姉殺してるで?それに、体制をくずして引いただろ。さっきの体制で引き金ひいたら、反動でお前も無傷じゃないかもしれないんやで!?」

梓は、菊姉にむかって模造銃をぶん投げた。

菊姉は、ケープで衝撃をやわらげ、包み込むように銃をくるんだ。

「だから!!」

「…友。いいって。予測はできてた。私にも怪我無いよ」

「だとしても!!」

「そもそも、…なんで模造なんかを渡すのよ!!」

「現実的にみれば、理解しやすいでしょう?」

気味悪さ纏い、顔色一つ変えない姿に気圧される。

「なによそれ!!」

「実際。リアルな体験ができたでしょう?」

「いやぁ…。怖すぎたよ。もうちょっと甘くてもいいかな…」

「阿呆。坂巻。武器ってのはそういうもんやねん」

「わ、わかってるよ」

「武器の危険性はわかりました。護身できるものを支給してはくれませんか?」

「護身で、なおかつ、危険性がないものは、プロテクターくらいか?防刃系だったらどうやろうか?サイズあったか調べとくか…。とりあえず全員。シーズンチェックのデータおくっておいてくれるか?」

「それか、初歩の初歩から、私たちに教えてもらうことできるかな…?」

香織の言葉に、麻実の顔が引きつる。

「私からは、動きやすいプロテクター以外は断固反対させてください」

「麻実からの意見。えらい珍しいな」

「そうですね。今まではお2人みたいに、揺るがないものがなかったんです。今回。ハッキリと伝えたほうがいいかなと」

「ええよ。言うとき」

「本物でも、模造でも。恒元さんのように投げつける例もあります。これは、非常に危険です。自分の行動に取り乱し、銃を乱暴に扱う人も見受けられました」

「あぁ。見てたで」

「銃以外の武器が安全かといわれれば、それは誤解です。ほかの武器も非常に危険なのを本当に理解していない。身近な道具でいえば、包丁が刃物であり、扱い方によっては、凶器にもなりうるような話です」

「それでも、いつまでいるかわからないんだったら、ゆっくりでも覚えて、足を引っ張らないようにしたいなって思ったんだよ…」

「ここにる人の関係性のなかで、信用ならない関係性があるからハッキリ言います。

取り扱いを覚えても、カッとなったら、ケガをさせかねない関係性の人もいますよね。ですから武器系は断固反対します」

「そんな風に言わなくても…!」

「そうやって声を荒げたり、目を反らすのがなによりの答えだとおもうんですが」

「でも…じゃあどうやって守ればいいの?」

「菊姉さん、岬さん。すみません、しっかり言っちゃいます」

「ええよ」

「みなさんが手にした模造品は、最初から模造品としてつくられたものではないです」

「え?」

「制作過程で、1つの工程だけだけ取り除いて作られたものです」

「…え」

「だからトリガーの重さ、硬さ。本物ってことや。よく俺らの試験でつかうもので、分解もできる。…だから、ほらな。一見本物とかわりない。弾のほうもな」

「さっきから、武器がほしいいと言っている駒野さん。あの時、その銃口は、どこをむいていましたか?」

「さ、佐山君に怖くてしがみついたので…」

「そう。驚いて佐山くんに飛びついて、拍子でトリガーを引いてた」

「はい…」

「本物であれば、あの至近距離なら、銃弾は腹部から、上にむいて発砲されていたはずです。佐山くんは助からないでしょう。

ほかのナイフや、鈍器に置き換えても危険としか言えない。それより…痛くありませんでしたか?」

「え!!!あ…!!」

「大丈夫です。香織。ほら。調査のときに借りた防具。着てるままだから、衝撃はあったけど。大丈夫だよ」

「よかった…」

一緒の防具をつけているやつにはわかるだろうし。ヘリオス側にも、この嘘はバレているだろう。

あの衝撃を吸収できる程度のものじゃない。

危険人物を通り越して、ただの加害者にされるところだった。

まぁ…衝撃だけじゃないのは事実だ。冷や汗は椅子のことと言い張ればいいだろうが。この痛みはあとで確認しないとならないな。


「改めて、自分が習得できるとおもいますか?」

「あの…私は…。いえ!いえ…。無理なのがわかる…わかるよ…」

「それでも、俺はお願いしたい」

俺は、香織を護り支えなきゃだめだ。

目の前にある銃に触れるどころか、開けることさえできなかった。

カゲロウのことがあって、持ちたくないという気持ちがあったからだけど。これでは、無力で非力すぎる。

香織のことも、もう言葉だけではもう支えきれないところがでてきている。逃げているだけじゃ、もうだめだ。

ここにいるルクスがエリートと言われているのが、不幸中の幸いだろうか。

それにルクス、ミデン兼ルーメの3人じゃこの人数うを守るには心もとない。

「俺はまた、焦ってミスするくらいなら、冷静である判断をできるようになりたい。だからこっち側にいちゃだめだとおもってます」

「じゃあ、俺は銃より、武道の方のライセンスを提示します、そっちだったら足手まといにはなりませんよね。鈍っているとおもうので、レクチャーもお願いしたいです」

「あぁ、それくらいはできるけど…」

「あ、ライセンスはこれです。ちょっと古い記録もありますけど、どうぞ。―須賀も、できる方だよな」

「和臣くん…?」

「…あぁ。竹内の言う通り、俺もできる」

「須賀…?」

「え…」

「…悪いが。提示物が多くなる…。こっちが前の所属。これは今の所属。で、ライセンス関係全部。でもルールでいうなら、有効期限はギリギリだとおもう」

カードをみながら、岬先輩は、驚きの声をあげた。

「…元クラントル…現ルーメ…」

「なになに?俺にもおしえーて?」

「正式にいうと、クラントル兵士候補生。その前には、吸収移籍された別組織の候補生だった」

「それにくわえ、特別部隊に特化した訓練うけてる」

「友は知らなかったの?」

「あぁ。おまえ、いままでよう気付かれなかったな」

「家庭の事情で、苗字は変わってたし、見た目も変わったから…。それに、俺は辞めようとしてたんで。部署も違うから、岬さんとはお会いすることもなかった」

「菊姉とは会ってたん?」

「一応。先生を通してでしたけど」

「特別部隊はどこの情報でも気軽に話せるものじゃないからね。でも友ならデータでみれるはずだったんだけど」

「なるほど、俺が抜けてたんか…。で、6人か」

「やっぱり私も!!」

「落着きー?何も戦うことだけが全部じゃないで?」

「でも…」

「6人もいたら、基本生活バラバラになっちまうとおもうんだわ」

「うん」

「帰ってきたらあったかいごはんとかあったほうが、嬉しいのよなー。たしかそっちのほう得意だったよなー?」

「わ、わかった。おいしいもの作ってみんなのこと支える」

「梓。まだなんかいうことあるか?」

「いまはそれでいいわ。元でもクラントルや、サジット派が関わってれば裏切り行為もないでしょう?」

「…じゃ、いまはそれで」

俺も思っていることではあったが、麻実の言葉が頭にこびりつく。

「信用のならない関係性か…」

触れてはいけないようなものだとおもっていた。

俺はいわないでいた。

でも、他から突きつけられるとこうも気分を害すのはなんでだ。

俺はわかっていたはずだし。皆もそれなりに思っていたはずなのに。

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