3枚目-カワル ⑤
ギターの音が。歌声が。
電気のない街に響いて散って消えていく。
(誰もいないんだ…。本当)
他人がどこか疎ましいと感じていても、誰かがいてほしいと願う二律背反の感情。
この曲も、どこか人を恋しい気分にさせてくる。
そこで気付いた。
(昨日みたいな静かな夜は―、そうか。久しぶりだったんだ…)
ヴァーチャルにあった雑踏。
まぶしいほどの明かり。
馴れ馴れしい距離感がない。
人の存在を感じたいという初めての感情が生まれた夜だった。
今は香織さえ隣に居ない。
夜は、また変な夢をみて…。
夢―。
立て続けにみてる、あの夢が思考を掴み止める。
夢にしては、内容が現実と嚙み合っている。
切り出してみようか…。例えば岬先輩なら。
単刀直入に言ってしまえば―。弱ってると思われるかもしれない…。
まずは、慎重に切り込んでみる。
「岬先輩。…先輩?」
「ん。おう。なんや?」
「先輩って、夢見るタイプですか?」
「夢かぁ。大体、ぐっすり寝ちまうからなぁ」
「そうですか…」
先輩はこういう時に冷静でいられるのは、やはり、軍人になる人だからか。
「なんや、寝てれないのか?」
「いや、どうなんでしょう…」
「俺がきいてるんよ」
「寝れてないかもしれません」
(覚悟決めるか…)
バレないように…。静かに深呼吸をする。
「不思議な夢をみたんです」
「ほう?ちょっと、輪からずれたほうがええよな?」
「お願いします」
坂巻に絡まれながら、輪をはずれ。すこしずれた所に座る。
「んで、不思議な夢って?」
「実は…」
俺は、なるべく細かく夢のことを説明をはじめる。
ここに来る前の話。ここに来てからの話。
そして、印象に残っている、瞳のような大きな月。
岬先輩は、ゆっくりとした雰囲気をだして聞いてくれている。
「――黙っててすみません」
「いや、そうなるやろ。―でも、話しとこって思ったんよな?思うところでもあったんか?」
「この夢が、この件と無関係には思えなくなってきたんです」
「なんで?」
「なんていうか、変な現実感と、相手の嫌悪感のリアルさというか…」
真正面から受け止めてくれた安心感で、俺は話す予定の範囲を広げた。
「その女の子が、佐山達…俺らも連れてきたって…?」
「そうですね」
「んー。なんかちょっとしたホラーやな」
「そうなんですよね」
「それは今も続いているか?」
「多分、今日も寝たら見ると思います」
「そうか。…せやなぁ…。んー。例えばよ?その夢の中の女の子と、サジット全開で噛みついてくる梓。どっちが怖い?」
「えぇっと…?」
「まぁ、たとえばよ」
「梓より、よっぽど怖いですよ」
「それは、怖すぎやな。もしかして、それがあったから、訓練を受けたいって思ったんか?」
「この件もありますけど…」
「香織か?」
「そうですね」
「今は香織と一緒じゃないんやな」
「夕方の件から、ちょっと…」
「あぁー…。お前らちょっと背負いすぎなきがするで」
「俺はただ、危ないことはしてほしくないっていうか」
「付き合ってるから出る感情かぁ」
「そういう感じです」
「まぁ、生活に支障でるまえに、また吐き出そうな。辛くなったら眠剤とかも処方できるやろうけど」
「あまり薬には頼りたくないので、話すことにします」
「それはそうやな」
岬先輩は、酒をグイっとあおった。
(なんか哀愁があるっていうか…)
その姿で思い出す、あの噂。
「そういえば、梓と付き合ってたんですよね」
先輩は盛大にむせた。
「…な、なんちゅう話を切り出すんや…!?」
「先輩から、ちょうどいいパスがきたので」
「ま、まぁ。考えようによったら…うん…まぁ…せやな…。まぁ、噂のやつやろ??」
「事実なんですか?」
「はぁー…。墓穴ほったわ。ははは。事実よ」
「意外です。どうして付き合うことになったんですか?」
「そこらへんは噂になってないんか?」
「噂になってるのは、昔の恋人同士で、大恋愛からの悲恋みたいなストーリ―でしたね」
「なんやそれ」
「2人で何話してるんですか。僕も混ぜてくださいよ」
「なんやねん竹内。嗅ぎ付けおってからに」
「恒元さんとの、あの噂のことですか?」
(あのまま歌ってればいいのに…)
「お前も知っとんのか…。流行ってるんかそれ…」
俺はすこし距離をとって、先輩には軽く頭を下げた。
「編入してきてすぐに聞きましたね」
「なんでお前にまで話さないかんねや」
「アプローチうけてるからですかね。いい回避方法のヒントになればと」
「あぁー…。なるほどな?でも、俺から得られるものないとおもうで」
「どうしてですか?」
「俺。振られた側やねん」
「え」
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