2枚目ーキエル ⑦
翌朝になっても、事態が好転する気配もない。
岬先輩が、ゆっくり丁寧に切り出した。
「救助も連絡もない。昨日からかわったこともない」
「特殊回線も含め。どんな通信手段は使えないまま?」
「デバイスでの通話はできたよなー?」
「それは施設内の回線つかってたからやな」
「じゃあ、世界とつながったわけじゃないのか」
「あぁ。あくまで俺らの持っているもので、知り合いとして連絡交換しないと無理」
香織から落胆するため息が聞こえたが、そんな様子を見てもなにもできない。
「菊姉なら、なんか突破口みつけそうだけどな…」
「また寝ちゃいましたからね」
「え」
「佐山がでてったあと、目覚ましたんやけどな。傷の処置が終わったらもう寝たわ」
「怪我は?」
「あぁ…細かい傷があったのと、あれ鋭かったやろ。無数に傷があってな」
「氷と血と混ざって多く見えただけでした」
「よかった…菊姉さん…」
「あの…その夜の話の答えがほしいんですけど」
竹内が手を挙げた。
岬先輩は、明らかに困った顔になる。
「それでも、俺たちの見えないところに居る可能性は、まだあると考えてもいいですかね」
ため息交じりの深呼吸。
「はぁ…。ダメっていっても、お前らは許可でるまでいうんよな」
「そうですね」
「もうそれ、丸め込みにいきてるやん」
「それくらい、ちゃんとしたいんですよ」
「休んどいたらええのに」
「竹内さん。何があるかわからないから、やめた方がいいとおもいますよ」
「やれることはやりたいんですよ」
3人の言うとおり、何もしないままで、状況が変わることはないとはおもう。
でも、俺は、夢のこともあってとんでもないことが待ち構えているのではと思えてしょうがない。
ここで、あの夢のことを言っても。皆を混乱させるようなことしかない。
「ヘリオスが何で仕切ってるからでしょうよ。竹内さんは、サジットですよね?なんでヘリオス側の小石さんを選んだんですか?」
「この状況でも…」
「俺なりに、バランスのいい人選をしたつもりなんですけど…」
「私だったら、バランスが悪いんですか?」
「そんな風に言ってないじゃないですか」
「小石さんは、黙って」
「はぁ?」
「―…佐山も手伝ってくれるか?」
なんてここで俺に振ってくるんだよ。
「佐山くん…」
視線が痛くて、反論したいが、押し黙ってしまう。
困って、岬先輩へ視線送ってしまう俺はずるい。
「…竹内。有志だけでって話やったやろ?…強制がはいるんやったら、話はちがうで?」
「情報なら、私やるよ」
「楓…?」
「何?」
「いや…なんも…。なんか珍しなーと…」
「守山さん、ありがとう。でも佐山が欲しいんだ」
楓さんでいいとおもうんだが、俺が入る事で、この事態が変わるのか…?
言葉の矛先から、視線。そして、態度に意識を広げていく。
あぁ、なんとなくわかってきた。
これは、岬先輩と竹内の意見のぶつかりではなく。
それをとりまく、香織や、梓を含めたいつものやつだ。
「岬先輩…単純作業でいいなら。生徒会のメンバーとしてでますよ」
この一言がほしかったんだろう?竹内。梓からのヘイトを、生徒会というものをかませることで、和らげることができると考えたらしい。現(いま)と次期(つぎ)の違いに意味があるのだろう。なにより、香織の不安も減る。
動けなかった状態から察せた事で、いつもの自分を取り戻した感じがした。
「これでいいですか?」
「…まぁ。それなら」
これは食わされたというのもあるのか。
香織のことで、距離をとっているから。なるべく距離を取るように気を付けないと…。
―――
岬先輩と麻美が、機材の説明をしながら指揮をとる。
測定と資格情報が岬先輩と坂巻。収音や温度状況などを竹内。情報入力を俺。校舎ベランダから状況確認は麻実がしている。
昨日のことを踏まえてくれているのだろうか。ここまで竹内との接触を最小限に抑えられている。
「あー。他のところには電気通ってないんだっけ?」
「学校の敷地外は、通電してない」
坂巻にみせると、ふむふむとコンビニにはいっていく。
「じゃあ、ここにあるの、ダメにならない?」
「確かに、日持ちしそうではないね」
「HEY、トモアーキ。食料もっていかないかーい?」
「ええけど、一応買える範囲でな。現金はおいてけな」
「トモアーキは、カターイね」
「普通やろ…」
「フードロスのほうも深刻な問題デース。なぁ?サヤーマ?」
「そうだけど…。乾麺とかは、賞味期限をメモしよう。先に消費するのは、生ものだ」
「商品管理一覧があったから撮っておこう」
「食材は、倉庫とかもあるはずだ」
「下手にあけて温度をかえないほうがいい。次にしたほうがいいな」
「ジャンキーなのがたりないなぁ」
「…酒はいってるけど」
「やっぱり必要じゃん?あれ、まだ未成年か」
「俺だけね」
「ノンアル系もなんか買っておこうぜ」
坂巻は、そのままのテンションで続けた。
「竹内となんかあんの?」
「へ?」
とんでもない情けない声に笑われてしまう。
「そういうのだけ感情でるなって。なんとなくおもっただけだって。聞かれるまえに言ってくれよ」
「あぁ…。べつに変なものじゃないんだ」
「まぁ、大体想像はつくけど。駒野さんの元と今。だろ?」
たぶん、思い切り表情にでた。
「あぁ、言い方ごめんな?親友だと気まずいよな。俺はなったことないから想像でしかないけど」
「んー…はは。どうだろうな」
俺は別に元カレでとか親友だからとかで距離を置いたわけじゃない。
でもこれ以上、喋ることもない。
「あとで足りない分は払いに来ます」
「お前も真面目だね」
―ピガガッ ザ
『二人とも、すぐ戻ってください!!』
「どうした?」
『いいからこい!!』
「坂巻!」
「おう」
岬先輩は、建物の影にむけて構えていた。
『私から説明します』
「頼む」
『現在、岬さんが向いている方向。温度が異常に低い観測がでました』
「低い?鉄じゃないの?えっと…温度は…-80度!?」
「冷えてるどころの騒ぎじゃねーな…。ガスとかそんな感じ?」
「これ、見てください」
画面をのぞきこんだ坂巻がたじろぐ。
「え…動物っぽいな。動いてる…?いや…いやいや…」
ぽいといってしまうのは、見たことのない形で、とてもぼやけているから。
…―80度の動物生命体が街にいるなんて考えられない。
体温でも室温でもかけ離れすぎている。
建物のほうがから、低いうなり声が響く。
「来る」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。