2枚目ーキエル ⑤

「麻実だけじゃ、危ないんじゃ…」

「平気やとおもう。あぁ見えて、俺らが頼りにしてるほど、実力あるねんで」

「施設で寝泊りですか…?」

「あぁ。施設じゃなくて、ここで寝泊りな」

「教室を部屋替わりにってことですか」

「ここのは、緊急時の民間人の保護施設や、軍事基地になるくらいの備えがあるねん。その切り替えを頼んだんよ」

「そうなんですか」

「佐山は、視察にきたとき教わったやろ?」

「はい。先生たちから…」

「ちょっと資料だけ、展開してくれるか?」

「はい」

「普段は、外からの発電所からの供給に頼ってる。スイッチを切り替えると、この施設内にあるもので賄えるようになる」

「電力だけですか?」

「生活に関するものを自動に切り替える。だから薬のシステムも動くし、デバイスの充電もできる。敷地内のカメラもうごかすし。救難信号も定期的に飛ばす」

「これだけ稼働するなら、ある程度安心していられますね…」

「梓、お前のほうの施設のほうは動かしたか?」

「明日の朝、なにもなかったら動かすわ」

「両方うごかすと、どうなるんですか?」

「年単位で、暮らせるくらいのもんにはなるな」

『もしもし、聞こえますか?」

「あぁ。大丈夫やで。機能は大丈夫そうか?」

『はい、無事みたいです。確認したところから切り替えますね』

パッと電気が通る。

「システムエラーはでてるか?」

『いえ。大丈夫です。ただ、すこし不安なので。安定するまで、こちらにいますね』

「頼んだわ」


システムを起動したことにより、温めた保存食を夕飯として食べることができた。

味わうことはできなかったけれど。ありがたいものだ。

岬先輩の説明をききながら、生徒会の資料をみていたが、目で見ることはやっぱり大事だ。

システムもつかわれなければ、ないのとおなじ。

言い合いもあったが、いつものようにエスカレートもしなかったし。俺は、止めに入ろうともしなかった。

『システムを使えないか」と俺からも提案できたはずなのにと、情けない考えが止まらなかった。

夕食後は、岬先輩を中心に事実確認をした。

全員がしっかりと発言したわけではなかったが、普通では考えられないことを体験した。

それは、俺たちでもわかるように。いやがらせや災害。なんらかが作動したわけではないこと。戦争や災害でもなく。理由のつかない事態。

「災害があっても、日常のリズムが崩れると、もっと余裕なくなるからな。生活部分開放するわ」

生活雑貨、シャワーや風呂。サウナ、ジム。音楽や各映像作品などの娯楽まで夜の行動をなるべくいつものようにしてくれた。

何人かは、1人になりたい。寝る時に人がいると無理だといい。隣の教室などを使うといって出ていった。

倒れたのが赤の他人だったら。俺もそうしていただろう。

医療道具を広げ、心電図をつなぎ。簡易的に点滴のようなものをいくつもつないで眠っている姿。

別部屋にいったら気が楽になるわけでもない。

それに誰かが、俺らを逃げられないようにしているような。そんな感じもして、逃げたら思惑通りなっているような、変な強がりもあった。

とくに。あの夢のこともあり、変なバランスを崩さないように必死になっている。

『世界への招待…方法がこれかよ。いや、予知夢的なものだ。たぶん…』


時計の音だけが響く部屋。

電気から、ランタンにかえていく岬先輩を、部屋の隅から見る。

「佐山。お前が無理することないんやで」

「先輩だって、休んだ方がいいです」

心電図の音が、自分の焦りや不安を静かに煽る。

「俺はほら。バディであり。補佐やから」

「責務みたいな感じですね」

「まぁ、せやな。俺らはずっと一緒やろうし」

「そうなんですか?」

「多分な…」

「上下関係的なものが決まってるんですね」

「いや、そういうわけじゃないで。ただまぁ。菊姉に背中預けるのは慣れてもうてるから、他のやつと組むより、そのままが…って上も思ってるんちゃうか?」

「あぁ…」

「麻実と交代制時間決めてあるから。お前も、もう休め」

「もうすこし、ここにいます。―今日は、色々とすみませんでした」

「あー?…香織か?ええんよ」

「あの言葉は、どんなに取り繕っても失礼だと思いました。最近の言動も…」

俺の気持ちのどこかにも、正直あるものだし。謝らないと気が済まない。

「お前がいうてやるなや。…住む世界が違うって思ってることが、ポロっとでただけの話やろ?」

こういうことも、本当に些細な切っ掛けで、伝わってしまう。

「ええよ。俺はな。そういうの素直に言ってくれたほうがええ」

「そうですか?」

「反対な立場であったとしようか。なんやて!歩の弟は軍人なん!?ってなるとおもう」

「そうでしょうか…」

「菊姉でも、そういうやろ」

「そうですかね…菊姉は、根っから軍人っぽいですけど」

「それな、怒られるとおもうで」

「それは、困りますね」

「俺らは軍の関係者ではあるが、これから行く場所が、佐山たちとは違うだけで。今はもっとこう…仲間内でいたい気持ちは理解してほしい」

「これから行く場所…」

「そう。いわゆるお仕事先。俺らはお前らが生きやすいように守り、助けを求める人のところへいく」

「仕事先って…」

「思ったまんまでええで。―ただ。特に今な。その気持ちが強く出ちまうと色々障害になっちまうのよな」

「そうですね」

「だから、まったくは無理かもしれんけど。俺は、佐山のこと、ちゃんと頼るからな」

「あの…その…。俺も相談が―」

「ん?何かあったんか?」

「実は―」

―ガタン ガラガラ…

「すみません、ちょっと手伝ってください」

「お。パーテーションか」

「…こんな姿、マジマジみられるのは、嫌でしょう?」

「あー…せやな。そこまでは、気が回らんかった」

設置していく竹内と岬先輩。

「聡介。手伝ってほしい」

竹内の傍にはいる気になれず、目を見ることも。頷くこともできないまま、外にでる。

夢のことを言うのを逃した…。

もうすこし、確証を持ってからのほうがいいか…?いや、どうやって…?

竹内…。あんなに気が使えるやつなのに、香織にはあんな顔をして、嫌味もいうやつなのが受け入れられない。

親友だったころの竹内が消えることはない。あれは俺にとって現実。

俺がぶれてちゃダメなんだけど。ダメなんだけど…。どうしても―。

『無力は自分の中にある闇の名前だ。…―まず自分を信じてみてほしい。

 ―四肢は動くか?痛みはないか?呼吸は十分にできるか?すべてをもって、自分を落ち着かせていけ』

「頭は冷静であれ。状況をつかめ…よし」


香織は、ベランダから外をみていた。

「冷えるよ」

「うん…でもちょうどいいかも。…街、暗いね」

中心街は、この時間になっても電気がついていない。

「どうなってるんだろうね」

「わかんないけど、朝になるまで動けないから。今は考えなくていいよ」

「うん」

「休めない?」

「そうだね…」

「言葉選ばなくていいから口にしてみたらいい」

「―菊姉さんは?」

「寝てるよ」

「そっか。…裕君とは話した?」

「いや」

「やりにくいな…。…あぁ。いや、裕くんがいるととかじゃなくて」

「いいって。詳しく聞かないから」

「うん。何で私たちだけなんだろうね。選ばれたみたいに身内ばっかり」

「―うん」

「佐山くんは、消えたりしないよね?」

「ずっと、一緒にいる」

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