1枚目ーシミ ⑤
1日の授業をやっと終えた。が。
当然のように呼び止められ。職員室まで届けものを頼まれた。
生徒会の要件は、予定通り終わらせることができてホッとしていたのに、荷物を渡されるついでに文化祭の作業が新たに追加されて、気分は最悪である。
一息つきたいとおもっていたのに。つい、他人の何かを恨んでしまう瞬間。
あれ以降、香織の返信は極端に減っているのも心配だ。
『体調悪くて、倒れたりしてないだろうか…』
共同校舎、生徒ホールの吹き抜け部分から香織がいないかと様子をみる。
まだ人の多い生徒ホールで、完全に楓と須賀は2人だけの世界に浸っていた。
特別な厄日に対し、2人は楽しそうで。会話の響き方に、心が飲まれていく。
とりわけ、楓の声は綺麗だから響く。
気配を感じて視線を滑らせると、梓をみつける。
関わらないほうがいい顔をしている。
見ていたことすべて、知られないほうがいい。
そう自分の中のなにかが訴えて、さっさと終わらせようと足を動かした。
「お。佐山じゃん」
坂巻は、ひらひらと手を振っている。
「相変わらずだなー。過労死でもするんじゃないの?」
仲が悪いように思われることもあるほど正反対なやつだが、これくらいのスタンスでいてくれたほうが、距離をはかりやすくていい。
「…手伝う?とかないのが、坂巻らしいね」
「わーるかったーよー!ほれ」
「いいよ」
「拗ねんなよー!!」
「ちょっと、からかっただけだよ」
「おまえなー!…あ。今月のシーズンチェックはお済ですかね?」
「予約してあるけど…あ、当番なのか」
「そ!一応、言っとかないとね」
「ってか。…なんか息乱れてるし、汗かきすぎじゃないか?大丈夫かよ」
「いやー…なんつーか。恒元さんとちょっとしたやりとりをー…」
「また、何かあった?」
「いやー…あはは」
「機嫌悪いの知ってるだろ?ホールにいたんだから」
「あー。うん、知ってる。ちょー見てた」
「見てたから、言いがかりされたとか?」
「違う違う!俺にはないから!!ほら。俺は、フリーだしな!!」
「だけど」
「変に地雷踏んだわけじゃないから。だてに人間観測してないからな」
「人間観察な」
「そうそれ!」
このホールの人間を観察をしたところで。楽しいとおもうのは、俺にはわからない。
クラスもないこの学校では、ホールが貴重な社交、友好関係を構築する場だ。
坂巻は、とても愛想がよく。様々な人と会話して遊んでいる。
色々な事情を知っているからこそ、見えるものがあるのかもしれないし、それを自分にも相手にも、うまく作用するのだろう。
俺にとっては、人間関係は面倒なだけ。
誰にも肩入れをしたくない、理解をしようとも、しあえると思えない。
視線をホールにむけて続け、坂巻は続ける。
「俺の事はよくって。今更だけど。佐山ってあの2人みたいに遊ぶ時間ほしいんじゃないの?」
「ん?」
「あれ?それくらいの願望あるのかなって。俺はさ、彼女いないし。色恋わかんねーけど。佐山と駒野さんみてると、素直にいいなーって」
「そりゃ、どうも」
「だから、時間を気にすることなく、駒野さんと一緒に居られたら、そりゃお前は幸せそうな顔をするんだろうなって」
「…そうかなぁ」
正直、カップルの正解がわからない。あるのかそういうの。いや、俺の問題だ。
香織はどう思っているのだろう。
「佐山君ー!坂巻君ー!」
廊下の反対から、麻実が俺のもってる資料をみたからか、走ってきた。
「ねぇ、手伝うよ。書類重いでしょ」
「ほら」
「うわー。まじかー」
「?」
「なんでもない。生徒会のほうは終わった。これは先生の課題のやつ」
「はぁー。よくはないけど、よかったー!さっきのことで仕事が増えたのかと…」
「逆にみんな、そう思うんだって。おまえ色々働きすぎなんだってー。つんつん!」
「ははは。だよね。なんかどうしてもまたお仕事かな?って思っちゃうよ」
同じことを俺も、思い出すことができるが、麻実だけが謝ることでもない。それに終わった話に変わりはない。
「それでもさっき小石さん、かっこよかったよー」
「あ…あはは…。変なところみせて、ごめんなさい」
「いや、なんかできる人だなっておもった」
「佐山君に負担かけちゃって、ごめんね」
「いや、俺は別に」
「ってか、先生も見てたんだって。止めない先生も先生だよ」
「あの2人のことは、名物みたいになってるからね!」
「笑いごとじゃないってばー。生徒会の方は、あれからどう?」
「大丈夫。データも認印とサインいりでかえってきた。あとは香織と一緒に帰るだけだよ」
「うわーー!!天然惚気ー。独り身の俺溶けちゃうから退散!!!どろん!!」
けらけらと去る坂巻とは反対に。麻実は、読み取りにくい表情をしていた。
「バカップルをみてると、目の毒だよ?じゃね」
親しい友達であるのに、その言葉を選ぶほどに、楓と須賀はやっぱり異質なんじゃないか。
とうの2人は、年寄の先生に注意されている。
色々見て、考えていたような気がする。
そしてそれを見ている目線があったことを思い出したがもう、そこには居なかった。
「あれ、誰だっけなー…」
たまに思い出したいことも、思い出せないことがある。
兄に相談したところで、それは思い出さなくてもいいことではないか。というのが現状への答えとしてあるから、思い出さなくてもいいのだとしておこう。
「あー。楓ちゃんたち怒られてるねー」
「びっ…くりした…」
「え?あーごめん。坂巻くんに教えてもらったの」
「そうなんだ」
きっと、あの調子で、へらへらと言ったのだろう。
「なんかほっとした」
「なんで?」
「ぜんぜん返信なかったから」
「あー。明日のこと考えてたら、ぼーっとしちゃってて!!」
「授業は大丈夫だったの?」
「聞いてればいいやつだったし」
「そっか」
「一緒に、帰れそう?」
「これを職員室において、生徒会の資料もついでに置いたら帰れる。もうちょい待って」
「手伝うよ」
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