1枚目ーシミ ④
「生徒会長、ご用件は?」
野次馬さえも、凍り付けるくらい冷たい。
でも、練習場で俺らを怒った声よりは、まだ温もりがある。
「…なんでこんなに、予算があるわけ?」
「予算…ですか?」
「そうよ。サジットの部がそれぞれがこのくらいなのに、ヘリオスの部は倍以上。なにこれ」
「先日の視察ありましたし。その審査上でのものでしょう」
「贔屓じゃないの?」
「明星の城がですか?それはないとおもいますが」
「どーだか。あの城だってヘリオスが鍵を握ってるようなものじゃない」
「佐山君、みょうじょーの…?」
「明星の城。ヘリオスと、国内組織のトップが話し合う会議の呼称だよ」
「アステール・カウスじゃなくて?」
「アステール・カウスは、この国での特別機関だよ。アステールは、星。カウスは、いて座の星の名前からとってる」
「2つの組織の名前が関係してる名前なんだね」
「明星の城は、ヘリオスに関係する各国のトップが集う国際会議の場所。今回はこの国で開かれてて、サジットとも交流してるってニュースでみたよ」
「へぇ…」
「説明はおわりましたか?」
「…ごめん」
「余らせる事があったら、返してないで。ほかの部にもまわすとかしてもらえる?」
「それはできません」
「なんでよ。じゃあそういう意見を上にしてもいいんじゃないの?」
「できません」
「なによ、助け合いもできないの?」
「そういう決まりを作ったのは、ケイローン・サジットの皆様です。明星の城でも恒元家の当主が説明されていましたよね」
「お母さんひとりで、話が通るわけがないでしょう!?」
「梓…。サジットから、親御さんだけが出たわけじゃないだろう。全員がおもってるなら、正式に書面で言えばいい」
いくらなんでも身勝手すぎる。
「本部許諾が通りましたので、提示いたします。サジットの署名もご確認いただけますでしょうか」
恒元家当主と恒元亜弓未 ―梓の母のサインがある。
「めちゃくちゃ古い書面だして…!どうせ、ちゃんとした話し合いもこの時からしてないくせに」
「アリア・ヘリオスは、この国を導いたケイローン・サジットに、最大限の敬意を払って接しております。各組織からの出資は、学校の資金ではありません。余らせたからと勝手に他の部へ譲渡することはできません」
「ここをご覧ください。この類のものは、ケイローン・サジットから禁止要請がでている項目です」
「…喧嘩売ってんの?」
「協定条約の基礎に、反する事は致しません」
低レベルな感情論と私怨に、さっくりとどめを刺した。
「梓ちゃん、私たちの会議でなんとかなるレベルの話じゃないよ」
「香織は、サジットでしょ?少しは話に加わってもいいじゃない」
「話があるって言いだしたのは梓で、俺たちは言ってない」
思わず声を荒げてしまった。
「じゃあ、射撃部の結果が伴っているとでもいうの?ルクスっていっても、こんなもん?」
「はぁ?」
「サジットの結果はこちら。どう?はやくそっちのものを出してみてよ」
まずい…。話が終わらないうえに、ヘリオス派につよい怒りを持たれた。
「なによ。2人は特別なんでしょう?そうやってみんな持ち上げてるじゃない。その特別を見せてよって言ってるの。それに、小石さんのような三下のルクス以外の方たちも資金に見合った実績をあげてほしいってだけなんだけど」
「なっ…。―…失礼」
梓が火をつけた怒りの騒めきの中。麻実はアリア・ルクス2人視線に気付くと、襟を正して深呼吸し、口調を改めた。
「勘違いなさっているようなので、訂正させていただきます。アリア・ミデンと言われる専門家。または育成部門は、基本的には、日々勉強。意見交換。地道な研究。追及。より専門知識を深め生かすことが目的です。認めてもらうために、褒め称えてほしくて活動をしておりません」
「じゃあ、実績なしの無能?」
「いいえ!ミデンの実績は、送信したものをご確認ください」
「小石さんは、小峰先生と同じ、ミデンなの?」
「私は、ルーメとミデンを兼任しています」
「ん?どういうこと?」
「岬さんや、菊原さんは幹部候補生のルクス。小峰先生は、専門家ミデン。私は、軍特化型の情報専門家もあり、兵士候補生でもある兼任扱いになります。―とりあえず、全体を説明したほうがいいでしょうか」
「お願いします」
「アリア・ヘリオスは、アリア・エオスという軍を有しており。ルクスは将校。ルーメは、兵士と大きく2つで区分されていますされています。ルーメは各兵科に分類され。制服もこのように違います」
「ルクスの制服、あまり見たことないよね」
「この地区ですと、2人だけですからね」
「へぇ…」
「幹部候補生徽章や制服の変化はこちらの情報の通りです」
香織に見やすい位置に投影した。製作者サインは、麻実名義になっている。
「アリア・ミデンは、専門家、または専門家育成の部門で、エオス軍とは基本です。幅広い職業ごとに適正を診断し、当事者の同意の上で専門知識をつけています。どこに所属しても。基本的信念を元に―」
「梓ちゃんがいうような、それぞれの実績はどうなの?」
「実績というものを、恒元さんがどう捉えているのか、わかりませんが…。近年は、ルクス2人はどの大会でも連続優勝。ルーメも好成績。ヘリオスの養成部門中でもトップクラスです。ミデンのほうでも、近日中に活動報告会があります。資金説明としては。基本装備、消耗品に充てられています。資料はこちらです」
年代ごと、当時の平均金額を、現代に換算されて織り込まれている。
これほどの資料をつくるのは、麻実しかみたことがない。
特徴的なのは、触れた者だけに聞こえるよう、音声で丁寧な補足説明機能を織り交ぜている。
自己紹介のとき。「ルーメとミデンを兼任しているので、一般と軍の架け橋になりたいです」と言っていたことを思い出した。
「おかしなところなんてないよ。ちゃんと筋通ってる…」
「納得できないから言ってるの。それがおかしいの!?」
「そういうわけじゃないけど…」
「香織は一言も、そんな事言ってないだろ?」
言葉を聞こうともせず「こんな所では仕事はできない」とどこかへ向かっていった。
「まったく。相変わらず難義なやつやのう」
制服を着崩しながら、岬先輩は座った。
「ご、ごめんなさい…」
「いや、香織が謝ることちゃうやろ」
「タイミングが悪かった。それだけですよ」
「…せやな。まぁ、しかたないわ…」
白い軍服をピンと、指で引っ張ってみせた。
実際、特殊な学園だ。
学生生活を謳歌したい人は、初めに世津学園を選択肢にいれない。
まず、学生服がない。
校則の範囲もかなり緩めだが、今日訪れた施設のような、特別なシステムや特殊なものがある。
中心部から離れているし、学生生活を楽しみたいなら、オシャレさえ我慢すれば、普通校のほうが利便性もいい。
なぜか。
アステール・カウス議会がプレゼントしたものだから。
サジットやヘリオスの活動がある場合、この学園がなにかと都合がいいだけだ。
梓のように、生まれたときから活動が始まる人もいる。
集会があっても、着替えなおして登校しなくていい。
俺は、サジットでもあり中立でもあるが、ここを選んでよかったと思う。
普通学校は、専門的に突き詰めることに限界があるが、ここだったら、サポート的にしっかりしている。
なにより、香織と出会うことはなかっただろう。
「記録は、いつも通り…?」
「あぁ。俺にも送っといてくれ。あの分だと。他のメンバーにも、ぶつかりかねんな」
「わかりました。周知メールもいれたほうがよさそうですね」
「頼んだ」
「はい。解散解散」
火は完全にきえることはなく、ぶつぶつと言っている声がする。
頭が痛い。
「佐山くん、これ」
そっと、鎮痛剤と水を渡された。
学校に備え付けてある薬剤機から受け取ってきてくれたものだろう。
システムが俺の不調に気付いて、呼び出しがあったか?となったが、香織の端末をリンクしている、俺が気付けなかったから、代わりにとってきてくれたようだ。
いつもは香織が調子が悪くなって、動けなくなり、俺が、処方箋をとってくるが。今回はその逆だ。
「香織は、大丈夫か?」
「あ…うん。大丈夫。それより。梓ちゃん、大丈夫かな…」
香織はすこし笑顔を見せたが、それがひどく心に心配を残すだけ。
そして、今日がまだ半分もあることに軽く絶望していた。
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