1枚目ーシミ ③
ホールは、賑やかだ
それぞれの気分で楽しんでいる空間は、とてもいいとおもう。
それに比べて、昼食休憩をおえた俺は、もう指一本でさえうごかしたくはないほど疲れている。
「あぁー…」
椅子にもたれかかりながら、横目にみえた香織は元気なのがみえる。それだけが救いだ。
資料は、セキュリティ対策済みなのを確認した。しばらくは、何も考えたくない。
もうこの際、作業場所は、どうだっていい。
梓も、ホールのほうが近いし、自分の下のメンバーもいるほうが、感情を律しているだろう。
香織の不満も、ホールにいれば、友達と会話できるだろう。変な噂のことも、考えすぎないとおもう。
俺は、楽しそうな香織が見ることができる。
お互いにとって、すこしでもいい方法だと考えた。
「お疲れさま。大丈夫?」
飴をおいた手をたどると、小石麻実が俺の顔色を伺っていた。
「ありがとう…」
「疲れにはね。甘いものがいいから」
「ミデンの知識から?」
「おばあちゃんの知恵袋だよ」
飴をほおばると、優しい甘みが広がる。
どことなく品がよく。ふんわりとした雰囲気は、綺麗というより、かわいいというものだろうか。
他の男性には、そこそこ人気があるし。そんな美人に心配されてどことなく、少し自慢したくもなる。
「もしかして、寝てないんじゃないですか?」
「いや。…もう慣れた」
「慣れたら、まずいでしょ?」
「そうだった」
なにも言い返せない。でいると、少し笑った。
「…ごめんね。一緒にやるはずだったのに」
「もう過ぎたことだろ」
「今日、梓ちゃん来るんだって?」
「来てくれるように、前々から頼んでたんだよ。個別に連絡先知らないし」
「そうなんだ」
「とりあえず、明日のことがあるからさ」
「あぁー…。総会かぁ」
「今日中には、終わらせないとまずい。もうすぐ来ると思うから離れたほうがいい」
細かいことに気を配る余裕がないことを悪くは思う。
すこし、麻実を傷つけるような言い方でも。お礼は言うべきだな。
麻実を見た梓は、機嫌を損ねるだろう。それは、作業の非効率化につながる。
「なるべく穏便に、はやく終わらせて、はやくかえりたいんだ。差し入れ、助かったよ。ありがとう」
「わかった。何かできることがあったら…こっそり指示書き込んで転送してきていいからね」
小声で言い終わると、グループの中へ戻っていく。
俺の性格は、生徒会を抜けるまでに理解してもらえているようで助かる。
さて、資料を丁寧なものに仕上げていく作業を再開するか…。
「もう、坂巻くんが、涙出るほど笑わせてくるー。…あ、どこまでできたかなぁ?」
「うーん。あとは、目通してもらってからかな。通したら、そのまま渡してくれればいいよ」
「うん。わかった!」
一気に疲れがでて、眩暈がした。
「大丈夫?」
「平気」
「朝から、いちゃついているのね」
予定よりもはやく、不機嫌な声が聞こえた。
「梓ちゃん。おはよう。えっと。あ…。これ今から確認するから。ちょっと待っててね」
ケイローン・サジットの家元を表す紫紺の制服に仕込んでいるのかというくらいの圧力。不機嫌な顔。人のことをじっと睨むことしか最近はしなくなった目。
「招集おつかれさま」
「ヘリオスもあったみたいね」
ぐるりと、あたりを見渡す目と、ヘリオス側のからの視線とぶつかっている。
でもそれは、梓が嫌悪感のある接し方をするからだ。
『友達として見ていた人は、いるのに』
梓とほんの一部の、サジット側の態度以外。みんな平穏に過ごしているし。友達としての関係だってある。
「先生から、連絡があったから、寄ったけど。書類なんて家でやるから、送ってくれればいいのに」
「外にだせない規約だろ」
「改竄できるでしょ。添付が手間なら、適当に代役してやっといてよ」
「そういうわけにもいかないだろ。そんな簡単に規約を破っていいのかよ」
「いいの」
『いつもより機嫌が悪いな…?』
気付かれないように、伸びをしながら周りを見て気づく。
守山楓と、須賀和臣か…。
―なるほど。
さっきの考えの一部を取り消す。
今の悪態は、ヘリオス側の招集があったからじゃない。あのカップルのが原因だ。
「朝からいちゃついているのね」と俺たちに向けたような言葉も、あっちへの言葉。
朝からの緊張状態を保って場所を考えるべきだった。
今日は厄日か…。
「お、おまたせ…。これ。…あと。飲み物どう?」
パタパタと息を上げながら戻ってきた。
梓は、その香織も強く睨みつけている。
「ありがとう。―あと、聞いたわ」
「なにを?」
メモリを専用の超小型端末でチェックしながら、スクリーン越しに、俺ら―というより香織を睨んでいる。
「ヘリオスの施設。入ったってね」
「誰から聞いたの?」
「深見先生。勝手なことしないで。しかもよりによって、サジットより先になんて」
「え、あ…」
「サジットのところに来たことなんて一度でもあった?要請、なかったんだけど」
「えっと…サジットには…」
「悪い。不自然なこともあって。俺のほうから言ったんだ」
「関係ない」
「…朝。コーヒーを菊姉の制服にかけちゃってね。その流れで…。明日は総会も、部長会議もあるし。その前にって―」
「あはははは。白い服を汚した?ふふふふ」
意地の悪い笑い声が響く。
「謝辞の意味もこめて、話したら。小峰先生が汲んでくれたんだよ」
「勝手なことはやめて。部長会も私からまだ正式に任せたとは言ってない」
「梓も、行ったことあるって聞いてるよ」
「ヘリオス施設でしょ?それがなに?」
「何って言われても。まぁ。引継ぎの挨拶とか、資料集め。視察もしたことあるからわかるだろ?それなりに用意しないといけないけど、まだ終わってないんだよ」
黙れという視線。
そして、香織は俺の背中を引っ張って、小声で言った。
『梓ちゃんは友達だから。機嫌が悪くても、私だけは邪険に扱うことはしたくない』
だから、伝えるべきは伝えたし終わらせることにした。
「悪かったよ」
今の雰囲気を改善できないなら、謝ってしまって終わらせた方がいい。
「…なによこれ。ちょっと呼んできて」
「あ、うん。菊姉だね?」
「他にだれがいるの…」
こんな扱い受けているのに…?香織は、理不尽だと思わないのか…?
梓はどう思ってるかなんて関係ない。友達としていたら、こんな扱いをしないとおもうが…。
「小石麻実さん。あんたは呼んでないんだけど?」
開口一番、梓は不機嫌そうに鋭く睨み付けた、麻実は動じず、凛と接する。
「おはようございます。生徒会長。こちら側の書記なので記録係として、同席させてください」
「なら、副部長の俺もな?」
2、3歩さがったところに立ってひらひらと手を挙げている。
「…岬さん…。わざわざ3人もくることないでしょう?」
「生徒会やて、香織に、佐山に。お前に3人やん?無暗に口出ししたりせんよ」
「こっち側で、所属してるのは―」
「阿呆。サジットの話ちゃうやろ。生徒会の括りや」
ヒートアップしそうなところで、腕を組み目を瞑り、机に寄り掛かった。
余計な口出しをしないと態度で示して、梓もすこし落ち着きを見せた。
「俺らも口出しはしないようにしような。香織」
「…うん」
「では、録音機能・書記機能を起動します」
「俺の方も、書記機能を起動する」
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