45話side① 現れたキュウビ様
【つーちゃん、つーちゃん・・!】
ヨリコは焦っていた。
植志田の気配を辿って爆速で追っているのだが、気配を示している場所に着いても、何故か彼らはそこに居ない。
気配は間違いなく、感じている。
契約しているため位置が共有できるはずだ。
だが、なぜか植志田と伊上は居ないのだ。
それでも頼りにできるのは気配でしかない。
一旦冷静にならなければ…。そう思い、ヨリコは一度深呼吸して、目を瞑った。
【ッ…!!??】
――――それは、"見たくない”ものだった。
植志田が伊上を庇って、何者かに斬りつけられている。
『何者』は、すぐにハッキリした。それはヨリコ自身だった。
悪意たっぷりの嫌味を数時間も聞かされているように、斬りつける手ごたえが明確に感じられる。
【いやっ!!つーちゃんを…なんでウチが…!?】
違う。断じて違う。
こんなことを自分がするわけがない。そう信じたい。
だが、大鋏が肉体を斬りつけた感覚が。血しぶきから香る鉄分の匂いが。植志田の生命の音がゆっくりと途切れていく姿が、現実に起こっているようにしか感じられない。
≪しっかりせい、小娘!≫
【その声…狐の使い…!?】
”見たくない”ものに深く囚われていたヨリコを、誰かが一括する。
次元を割って、児童図書館の主…キュウビがゆっくりと次元の割れ目から姿を現した。
『いやはや…まこと面倒な。我の子にも手を出す愚か者がおるとは』
キュウビは悪意の塊に侵食されかけているヨリコの額に、そっと撫でるように手を当てた。
【…キュウビ、さま。私は…つーちゃん…植志田君を…??】
目頭の涙が溢れて頬を伝うも、ヨリコの表情は追い付かず、強張ったままだ。
そんなヨリコに、キュウビは尾の一本で彼女の身体をフワッと抱きしめた。
もっふもふの毛並みにも、神力は通っている。
包む尾が、ヨリコが幻惑に囚われているのを解してくれた。
『悪い夢、ぞ。お主はそんなことをする者ではなかろう。それはお主も、相手も信じているじゃろう』
【…はい…】
ヨリコが落ち着くと、キュウビは尾を離し、眉間に狐のような皺を眉間によせて周囲を見回した。
【キュウビさまが来るなんて。何か…よほどの理由が?】
今のヨリコは、本来の真辺依子に限りなく近いものに戻っていた。
まさかキュウビが来るとは思いもよらなかったのだ。
『時空を歪め、何やら暗躍している不届き者がおっての。普段なら干渉しないが、その者らは何人かの我が子を《鎌鼬》やら物の怪に改造しおった』
キュウビの声は、いつもの飄々とした雰囲気を取り繕っているものの、怒りを抑えられないのか怒気が紛れ込んでいた。
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