44話-side④ 霊魂と鎌鼬
おそらくこの魂が、何らかの手を使って改造されたのだろう。
魂の雫は、幕生から逃げる力すら持ち合わせていないようで、ただただ困ったように静かに揺れながら宙に浮かぶだけだ。
『…君は、だあれ?』
幕生がやや柔和な態度で話しかけると、魂は小さくその光を揺らめかせる。
≪分からない≫と言っている気がする。
霊の改造には、される側の負担がかなり大きい。
素振りからは元々の魂が幼女なのか、成人女性が改造されて幼子になっているのか
まだ判定できない。
《…》
『…<逃げて>…?」
《… … …!》
魂は必死に、弱弱しい魂を全共鳴させて幕生に逃げろと言う。
何故、逃げろというのか…?
そう訝しんでいる刹那、刃物が研がれるような音が聞こえた。
【おっと】
すんでのところで身をよじり、その一撃を回避すると、幕生は黒傘を小刀に形質変化して相手を知ろうと動く。
カキン、カキンーーーー。
姿は見えないが、鉄器が交差してぶつかり合っている音らしきものが鳴っている。
風を切る音がかすかに聞こえる…ならば正体は鎌鼬のようなものだろう。
幕生は小刀をいったん下ろし、隙だらけの態勢を敢えて作り、ゆっくり目を閉じた。
ヒュンヒュン、ヒュン…。
風が切り裂かれ、その切り裂きは幕生の首…ではなく得物を持つ手に向けられた。
先に厄介な物を盗ろうという魂胆か?
【ガッ…ガガッ…】
【つーかまえた】
視えなくても、その勢いで刃の厚みは把握できる。
刃が振り下ろされた刹那、幕生は力業でその刃を斬られることも辞さずに手で掴みとめた。
刃を掴まれた瞬間、その怪は姿を現した。
予想通り、鎌鼬の類だ。
だが、大きさがおかしい。本来鎌鼬はそこまで大きくないはずだが、この個体は全長二メートル以上、体高も六十センチ以上ある。
鎌鼬は刃から幕生の手を引きはがしたくても、件の霊では実力差がありすぎてできない。
【中核をもらうね?こんなことしたの、だれか知りたいし】
言葉が終わった瞬間、鎌鼬は瞬きする間に細切れにされて滅された。
「ギィエエ…」
【…ん?】
細切れにしたはずの鎌鼬は、中核を盗られたことで怪の力が抜け、元の姿に戻っていく。どうやらこの鎌鼬も<改造>で造られているようだ。
纏われた妖気が解けた鎌鼬の正体は、鼬ではなく子狐だったようだ。
首には霊力で造られた細い透明な鎖が付けられている。
(霊力の鎖…!)
幕生は中核の解析を後回しにして、瀕死状態の子ぎつねの首についている鎖を毟り取った。
これが子狐を縛っていたのだろう。まだ弱ってはいるが、死からはとりあえず遠のいたようだ。
子狐はよろつきながらも立ちあがり、幕生を見つめる。
『なんだい』
《…》
子狐は幕生から霊魂に目を向けた。
ギョン! と一鳴きすると、子狐は霊魂に額をくっつけ、同化していった。
『ちょっ』
慌てる幕生だが、同化は始まってしまっていて止めることはもうできない。
同化が収まると、霊魂は白いワンピースに麦わら帽子をかぶった小学生高学年くらいの少女の姿に変わっていた。
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