44話-② 吸い込まれた場所は
白いワンピースの女が大きく開けた口の中に、植志田の意識が吸い込まれ始める。
強い吸引力に必死に抗うも、ヨリコに憑かれたことによって付いた力と植志田本人の体格をもって踏ん張っても徐々に引きずり込まれていく。
「植志田君!!」
植志田の身体の方に意識を向けていた伊上は、彼の身体から精神が引きはがされたのに気づくのが若干遅れてしまった。
振り返ってあの女に目を合わせてしまえば、伊上も巻き込まれるのは確実だ。
逆に言えば、伊上はこのまま振り返らず走り抜ければ自分だけは助かるだろう。
…そんなこと、選ぶわけがない。
直感をフル稼働させ、あの女の情報を少しでも何か感じられないか考える。
女からは確かに悪意を感じるが、明らかに最初はそれを抑制していた。
とすれば、やはりユウキの母のように何か糸口はあるのかもしれない。
伊上は振り向き、半透明に透過している植志田の魂を掴んだ。
(ばかやろ…!お前まで巻き込まれるぞ!)
植志田が吸引に抗いながら、こちらに無理向いた伊上に言葉を放つ必死な植志田に、伊上は真剣な顔で大丈夫だ、と一度深く頷いた。
――——女は好都合、と精神を高揚させ、二人の精神を一気に吸い込んだ。
・・・・・・・・
植志田と伊上は、吸引の勢いで生まれたつむじ風に流され、地面のようなものに叩きつけられた。
精神のみの状態だからか、その衝撃で死んだり痛みを感じたりはせず、ゴムのように衝撃を自然と緩和したような、変な感覚だった。
植志田は身体の中に響く衝撃の余韻が消えると、すぐに起き上がって伊上を見て嫌な汗をかいている。
「ばかやろう…!せっかく境子は逃げきれそうだったのに、なんでわざわざ…」
伊上がそういうことをしないのは、部活の付き合いで判ってはいる。
だが、それでも一言言いたくもなるのだ。
「植志田くんを置いてけるわけないでしょ。それに私だけ助かったって意味ないし、後味悪い」
伊上はサラッと答えつつ、周囲を確認した。
先ほどまでいた造生川の河川敷…のようだ。
ようだ、というのは、伊上たちの立ち位置から見えていた建物や橋の形式が明らかに現実と違う。
造生川の側には、現在新築の十二階建てマンションが多く立ち、改装したばかりの総合病院が目立っていたはずなのだが、この場所は古びたコンクリート、木造の古い家が立ち並び、場所によっては状態の悪い長屋のようなものもある。
橋はコンクリートではなく、赤い塗装が剥げかけている鉄で、その上には車ではなく鉄道が通っており、年代物の汽車がちょうど白い煙を上げて通過していった。
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