44話-side① ぶちギレたヨリコ

植志田と伊上が女に吸い込まれたことを、ヨリコと幕生は事が起きてから感知した。


この現世で悪霊や思念に『言葉を交わせるほど好かれる』というのは、ある種の契約のようなものだ。

能力・霊力の高い存在ほど、その『好かれる』ということは強制的な契約を結ぶのと同義になり、人間側には拒否をする権利はほぼないといっていい。

ただし、全く人間側にメリットがないという訳でもない。

大抵能力の高い存在は暴発することが多く、無差別に悪意を向け生者を傷つけることが起きるのだが、『好いた存在』はそんな危険暴走状態である彼らを制御することが出来る。

そして好かれた人間は、強い霊力をもった存在に生涯護られるのだが、願えば周囲に良い状況を生み出すことも可能だ。


だが、高位の思念体・悪霊が心から好く―――彼らを受け入れられるほどの力や資格を持つ人間は、滅多にいない。

幕生やヨリコ、キュウビといったこの街で最上位格の霊力を持つ者が惚れる者など、出遭えるとは彼ら自体思っていなかった。


植志田はヨリコに、伊上は幕生に『好かれている』ため、彼らが気付かぬところで

<契約>は成立している。

この契約状態になっていれば、霊体側は好いた者がどの状況にあるか把握することが出来るのだ。


ヨリコと幕生は、ハッキリいうなら油断していた。

圧倒的な悪霊のオーラを持つヨリコの気配と、実際にこの地域を〆ている幕生の気配に近づく者はまずいないと思っていたのだ。


だから、悪意に気付くのに遅れてしまった。


「つーちゃん!?!?!?つーちゃんの気配が消えたっ…!」

ヨリコは植志田の自室で動きがあるまで窓から外の夕日を見ながら待機していたのだが、直前まで何も悪いものは感知していなかった。

ことは、一瞬。突然吹き出した極太の悪霊の思念で出来た柱が、植志田の居る方角から立ち上ったのだ。


ヨリコは柱が立ち上ったのをみた瞬間、植志田の居場所へ即座に飛んだ。

「つーちゃん。つーちゃん!!」

ヨリコが着いた時には、植志田と伊上の姿は既になかった。

現場に残っているのは、風のない日なのに何らかの風圧で倒れた伊上の自転車。

そして、植志田がいつもポケットに入れている推しグッズのキーホルダー…。


【クスクスクス…クスクスクス…】

事を起こした悪霊のコケにするような笑い声がかすかに聞こえる。

概ね自分の存在など視えないだろうから、そのまま逃げおおせようとしているようだ。


…そんなことを、ヨリコがするわけがない。


””…!?!? カ、カッ…!!!ガッ…!!””

【アンタだよねえ…これ、やったの】


姿を透明化、気配を完全抹消していた白いワンピースの女は、彼女が全く感知できない速度で、そのそばにある霊力の塊を爆散するような高威力で喉を何かで掻き斬られ、怯んだところをガッチリ手で掴まれた後に側の橋柱に超高速で力任せに叩きつけられた。


それはあまりにも凄まじい威力で、悪霊の中でも中間よりやや上の霊力をもつ女の霊体が既に半分以上破壊されている。


【つーちゃんに手をだしたの、アンタだよね?】

ドス黒い、濃い瘴気の煙すら漂うヨリコの目は、弱りかけている白いワンピースの女を怒りのままに見据えていた。


”ガ…ガア!?!?”

【ちゃんと喋りなあ?何言ってるか分かんないから】

そう言いながら、ヨリコは柱の側で霊体を維持するのに手いっぱいになっている女の身体に力任せに手を物理的に突き刺し、彼女の腐敗した臓物を抉り出す。

【”ア゛ア゛ア゛…!!!!””】


【汚い声だすなよ。オマエがやったことの結果なんだから…それに霊体だから痛くも痒くもないでしょ?】

ズボオ…と聞くだけでも吐き気がする手が肉体に抉るような形で食い込み引き出された臓物はヨリコが口に入れ、すぐにベッと地面に吐き出す。

傷が出来た所からヨリコは指を立てるような形にし、その傷口から更に女の身体をい抉り潰していく。

悪霊である女の身体は本能的になまじ身体を回復させるため、ほぼ無限にヨリコはぐちゃぐちゃ…と生肉を掻きまわすような音を立てながら延々と女の身体を破壊する。


【何、その顔?ああ、鬱陶しいなあ。その被害者面】

身体をただの肉塊…いやそれ以下の何かに変え切ると、比較的綺麗に残っていた女の頭部に凄みのある顔で目を付ける。


【いらないよねえ、そんな目。そんな闇に飲まれた目なんて】


ヨリコはいつもの大鋏を出し、中途なく女のめに突き刺してグリングリンと左右に揺らす様に大きく動かす。


【ああ、鬱陶しい。そもそも考える脳みそもいらないよねえ?碌なこと考えてないんだから】


ヨリコは女の目に刺した大鋏はそのままに、女の額に両手の指をあてて、その頭部を真っ二つに引き裂いてしまった。


――――これが、本来のヨリコだった。


気に入らなければ、ムカつけば、徹底的に生身の人間だろうが同類だろうが、尊厳の欠片もない肉塊に変えるのだ。


【…あった。中核…】


引き裂いた後、更に気が済むまで腐敗し溶解しかけていた女の脳みそを更にぐちゃぐちゃにすりつぶす様に破壊していたヨリコは、その中から女の中核と思われる闇色の球をみつけた。



【そこまでにしてよ、ヨリコ。それ以上やれば、手掛かりが無くなる】

破壊衝動のままに女の身体を破壊していたヨリコの背後から、幕生も鬼気迫る表情で黒剣を突き付けていた。




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