43-③話 まんざらでもない二人

『深く考えんなって』と植志田は困り笑顔で考え込む伊上を宥める。

「ヨリコたちの本当のことは、分かんねえままでいいよ」

「…でも」

「どうしてかは分かんねえ。でも、ヨリコや幕生?は俺たちを気に入ってくれてる。

ある意味時間が止まっていた俺や境子を動かすみたいで…。それはそれで、悪くない、と俺は思う」


それに、と植志田は付け足すように「いつかその時は来るさ」と小さく笑った。

楽観的といえばそれまでだが、付け足された言葉には伊上も腑に落ちる。

『いつかその時が来る』というのは、当たらずも遠からずだろう。

ヨリコの真意は解らないが、幕生は何かしらの…本人が口に出していない理由があるような気がしてならない。

いつものように単刀直入に聞いてしまえば済む話なのだろうが、彼にはそれを何故か言い出せないでいた。


伊上自身、霊的・思念の存在に明確に気づくようになったことを自覚している。

子供の頃はそんなことがなかったはずなのに。

幕生に好かれたからだろうか?と疑うも、実際に霊感が顕著になったのはもう少し前になる。

その時は姿が明確に視える訳ではなく、確実に何かがぼんやりと居ることを判っている…くらいの感覚だった。

そのぼんやりとした何かが、何かを考えていることがわかる。

だが伊上はそれを怖がったりということはなく、ただただ無関心だったことに尽きる。


伊上も植志田も、高校生活では明らかに浮いていた。

浮いているのが分かるから、植志田は『部室』に籠り、伊上は周囲に興味を抱かないことで空間から乖離していた。

それは長い人生でみるならば、確かに『止まった時間』とも言えるだろう。

植志田は妙に達観しているというか、何か核心めいたことをいうことがある。

止まっている時間の中にいる二人は、幕生とヨリコによって動き出す…そんな言葉も、何かを突いているかもしれない。


「そうね…。今は、何も分からないし。でも、植志田くんも大変だね」

「大変って?」

「ペース乱されるの、好きじゃないでしょ」

ヨリコは神出鬼没だ。決して悪口ではないのだが、邪推されて殺されるのも勘弁願いたいのでやんわりと言葉にする。

「んー。でも、賑やかで悪くはないかな。ガチヲタの俺にそうやって接してくれる奴、いなかったし。…境子の方こそ、まんざらでもなさそうじゃん?」

「…悪くはないかな、とだけ言わせてもらうわ」


表情こそ変わらないものの、伊上はどこか嬉しそうにしているように見えた。

伊上は愛されていた子ではないことを知っている植志田は、また少しだけ安堵したような顔を見せた。


「さて、そろそろ行かないとまずそうだな…」

植志田はグーッと伸びをして、ふと側の橋下を見た。

伊上は考えることに夢中になって気づかないでいたが、植志田の視線の先に目を向けると、そこには気味が悪いほど真っ白なワンピースを着た黒髪の女性が音もなく立ちつくしていた。

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