43‐②話 伊上は考える
海静でヨリコと幕生が人を殺す時、目撃…視認できたのは伊上だけだった。
そして、植志田が見たヨリコも、植志田だけに見えていたようだった。
幕生が榎木を異空間に連れ去る際、生徒が朝礼を待つ教室…さらに言えば、榎木がヒステリーを勝手に起こして伊上に危害を加えようとしたのだから、大半の他生徒の興味はそちらに向いている空間で、堂々と藍色のワープホールのようなものを造りだし、そこから姿も見せてまるでその挙動を隠す素振りもなく現れ、引きずり込んだ。
ワープホールが消えた後も、伊上がその一部始終を見ているにも関わらず、他の生徒
たちは『榎木が消えた』と口々に告げた。
彼らからみれば、彼女は前触れもなく『突然』消えたのだ。
ヨリコにしてみても、異常なまでに伊上を連行(逮捕)しろと興奮する教師と、それを不可解に思う警官たちの目の前で、一番いきり立つ主任を殺した。
あんなに目立つ白金髪の、正直に言うならあの場に居るのは明らかにおかしい状況な彼女が大鋏で殺す場面を、誰もみていなかった。
この一幕も、見えていたのは伊上だけだった。
伊上と植志田の共通点は、元々特段の霊感やらを持っていないはずなのに、何故か他人には視えない幕生とヨリコの存在や言葉を明確に『在る』と認識していること。そして、互いに憑いている者に『気に入られている』ことだろうか。
正直、何故気に入られているのかも伊上と植志田たちには分からない。
幕生が悪霊かどうかは正直まだ分からないが、ヨリコに限って言えば幕生は『凶悪化』をしていると断言した。
「ねえ、植志田くん。ヨリコさんの姿って…貴方と一緒に歩いていても、他の人に視えて…る?」
確認をするために、伊上は特に目線も合わせず問いかける。
植志田は伊上の何かしらの考えを察したのか、彼も目を合わせずに、誤魔化す様に日が落ちかかっている鼠色の空を見上げた。
「…視えてないみたい、だな。だから俺がヨリコに話している姿は、傍から見れば宙に喧しく独り言言ってるようにしかみえないらしい。ヨリコがふざけて俺を壁にめり込ませても、境子以外には<俺が>自分から猛スピードで叩きつけている自傷行為にしか見えてないから、ただでさえ避けられてるのにますます奇特に見られる」
「なるほどねえ…」
狩藤の遺体の顔は、生徒という獲物に今まさに因縁を付けようとした怒り顔だった。
状況からすれば、伊上視点ならば幕生が<制裁>として殺した線が濃厚だ。
とすると、幕生の姿は狩藤には視えていたことになる。
ヨリコが存在感に本気を出していないからなのか?そもそもまだヨリコと幕生には、存在としての差があるのか?
だが先ほど考えた通り、幕生の姿や挙動は視えてない。
彼にはステルス機能のようなものを自分の意志でオンオフできるのだろうか…。
――――何故、彼らを伊上と植志田が認識できるのか。
まだはっきりと分からないことが多い。
それでも少ない付き合いと情報から、伊上は情報を整理し組み建てようといつのまにか深く考え込んでいた。
熟考する際にする、左眉に深く皺を刻む癖が出ていたのか、どこか別空間を見ているような焦点の合わない表情で宙を眺める伊上の頭を植志田は気づかせるように
ポン、ポンと二回ドリブルをするように優しく弾みをつけて手を当てた。
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