42話 つーちゃん誕生
「お、おい。どうして、急に泣くんだよ…??」
目の前で女子に泣かれると、植志田は落ち着かない。
自分が悪い訳ではないのだが、どんな状況であれ後ろめたさを感じてしまう。
「ああ、もう。とりあえず顔に血も付いてるしよ、これで拭いてくれよ!」
植志田は普段大事にし過ぎて使えない、大好きなアニメのキャラものハンカチを咄嗟に差し出した。
『春子』という魔法戦隊の紅一点で、そのハンカチはピンク色に春子の決め台詞
『正義は未来にあるの!』とポップな字体がハートマークと共に大きくプリントされている、ハッキリ言って幼女をターゲットにした子供向け商品だった。
咄嗟にだした植志田は、出した後に後悔した。
こんなの、ギャル女子が見たらドン引きだろうし、また馬鹿にされるだろうし、なにより推しグッズをだしてしまった…と。
だがヨリコは【ありがと…】と言ってそのハンカチで涙の流れ痕と目頭をポンポン、と押して吸い取るように使い、返り血の跡はワイルドに腕で拭った。
…問題は、その時のヨリコの声だった。
最初もそうだった。人の声ではあるが、絶妙に不快なノイズがかったような形容しがたい不穏な声色。
ノイズ、というのも間違いかもしれない。彼女の言葉はごく普通なのだがその背後には別世界の地獄のような不穏なものが隠せていないのだ。
顔を拭い終わると、ヨリコはしばらくぽけーっとした顔をした後、正直反応に困っている植志田が瞬きを一回した際に、突然ニッ!と太陽のように眩しい笑顔を浮かべて目の前から忽然と消えてしまった。
「き、消えた!?!?」
彼女が居たこと、何かしらの事件を起こしたことだけは分かった。
芝生とアスファルトの血だまりや血痕は消えておらず、渡したはずのハンカチが芝生に落ちるところを目の前で見たのだから。
「――――ヨリコはそうやって目の前で消えたから、心霊現象と思ってビクビクして帰ったんだよ。そしたらさ」
一晩眠って起きると、ヨリコが横になっている植志田の上にしれっと乗っかっていた、と彼は言った。
「ななな、アンタ、なんでここに!?何故俺の自室にしれっと入ってんだよ!」
【昨日は優しくしてくれてありが10!気になって憑いてきちゃったし!】
背丈も割とある女子生徒が乗っかっているはずなのに、体重の重みを全く感じられない。空気の塊が僅かに肌感を持ってフワフワと動いているようだ。
そして…口調は残念なギャル語である。
「憑いてきた、って…。やっぱ霊的なもんかよ!」
植志田が心臓をバクンバクンとさせているのもお構いなしに、彼女はフワッと風船のように飛び上がり、宙にフワフワと浮きながら彼の学習机に置いてある授業ノートを何気なく見た。
男子らしいややガサツな字で、『植志田通史』と書かれている。
【うえしだ…つうし?】
「『みちふみ』だよ!!」
思わず突っ込みを入れると、彼女はいたずらにクスクスと笑う。
【つうし、もかっこよくない?"つーちゃん”☆】
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