41話 ヨリコに遭った日
植志田が途世川で出遇ったヨリコは、今と全く同じ顔ではあったのだが、思い返すと制服が違った。
白金髪の今の髪型とメイクであることは間違いないのだが、今のように長い萌え袖ではなく半袖の夏物セーラーで、海静高校の歴代制服のモデルでもない。
返り血に塗れた水色セーラー服と白い二条線のリボンが、その日は春風に流される桜の花びらのようにたなびいていた。
「あ、いや、あの。『視えない』って…?」
血塗れの不良美女子高生なんて、植志田の中の嗜好では『ごちそうさまです!!!』でしかないのだが、いざ目の前で見ると陰キャの塊である彼はやはり飢えた狐に睨まれる兎のような状態である。
それに、明らかに植志田が側に居ることに気づいたばかりのヨリコの目は二週間以上放置された死んだ魚のような目で、その目に光があるとするならば、それは殺戮衝動や恨み、悲哀がそれぞれ強く重なり合った狂気としかいいようのない『この世の者とは思えぬ地獄』だった。
そして手に持っている背丈よりも大きい巨大な銀色の鋏は、嫌になるくらい銀色が眩しく輝き、その輝くボディにはいくつも大きな血の流れ跡。
それは夢や霊の類かと思いたくても、しっかりと彼女の周りの人工芝やアスファルトには大きなとの滲みができている。
『殺人した直後の帰りです』と言わんばかりの状況だ。
人の通りが全くないと言っていい場所だから、彼女はここを隠れ場所に選んだのだろうか?
だがそれにしては拓け過ぎている場所だ。あくまでも『人が来ない』スポットであり、『人に見つけられない』場所ではない。
明らかに殺人をしているから逃げるどころか、吸い寄せられるように近づき、挙句の果てに委縮しながらも自然と話しかけてしまっていた。
――——普通なら、どう考えてもあり得ないことだ。
だが、そんな狂気に満ちたヨリコは、植志田に話しかけられた瞬間目に涙を溜めた。
そしてその死んだ目は、彼女の顔をや姿を見てもなお逃げない植志田をはっきりと一眼レフのようにはっきりとフォーカスを当てると、僅かではあるが生気が戻っていくようだった。
深夜から朝になるときの様に、真っ黒な空が徐々に明朝の朝靄になっていくように、緩やかに、はっきりと。
【君は、私が視えるの…?】
目が輝きを取り戻す色に変わり切る頃、彼女はもう一度植志田にそう問いかけた。
正直なところ、まだ逃げ出したい気持ちが無いわけではない。
彼女から威圧的な狂気はほぼ抜けているが、まだどこかに燻っているであろう何かが感じられる。
植志田は特に霊感などはないはずなのだが…。
「あ、ああ。なんで?当り前じゃないか」
植志田の言葉に、嘘はない。
目の前に居るのは、イカレれた女子高生。それだけのはずなのだから。
その言葉を聞いた彼女は、ずっと堪えるように涙袋に溜めていた涙を、大粒の雫に変えてその白い頬に何度も伝わせるのだった。
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