閑話④-終 植志田との部活
しゃがんでも植志田はかなりでかい。
筋肉質だったらかなり威圧感があったのだろうが、ガリガリの彼は高校生というよりも、幾分か幼く見えた。
「牙王戦士知ってるってことは結構マニアックな同志だな」
「あれは私の性癖を突貫工事した思い出のアニメだから…。弱気なレオが苦難に巻き込まれながらも、身体を鍛えて真の正義の味方になっていくのは刺さるじゃない」
「そう!そうなんだよ!正面から目立つのは嫌いだから、変装して番長を名乗って人知れず悪を成敗してく!それがいいんだよな!」
「あと、カフスちゃんに想いを伝えられないけど、絶対に守るのが漢!」
「カフスちゃん!いい子なんだけど鈍感でな~。レオが番長として助けても気づいてなかったし!でも、最後にレオの名前を呼ぶのが…うう…」
…話が合いまくって、二人とも早口になる。
授業のチャイムが何回もなっていても、二人は関係なくアニメ談義をしていた。
ハッと我に返ったのは、四時間目の終わりである。
「はー。しかし、境子はガチモンだったか」
いつの間にか打ち解けて、植志田は伊上のことを『境子』と自然に呼んでいた。
「植志田君に<ガチモン>なんて言われたくないんだけど!…でも、ここまで趣味の話できたのは嬉しかったよ」
伊上が珍しく、クスクスと笑ったのを見て、植志田は一瞬目を梟のように真ん丸にしたが、すぐ平静に戻って『なんだ。笑えるんじゃん、境子』と茶化す。
「笑えるまでの出来事がないだけで、ちゃんと人の子ですからー」
伊上も柄になく幼めの反応を取っていた。
「…なあ、これ部活にしないかよ?」
「部活?」
笑いつかれた、と植志田は床に両手をついて伊上に提案する。
「俺とアンタ、部員二人の部活。ま、教師とかに認可されるわけないから、勝手にやる自主運営だけどな。放課後に、旧校舎のどこか…理科準備室かこの視聴覚室が多いと思うけど。そこでこうやってアニメの話したり、映像見たり、好きなことする部活!」
植志田と話が合うことは今回でよく分かった。
伊上のマニア作品を、全て植志田は細部まで知っていた。
コイツ、ただものではない。
それに、なんの代わり映えのない生活よりも、こんなたわいのない時間があるのはいいことだろう。
「…授業時間には、活動時間ないの?」
フフッ。と伊上は徒っぽく笑って提案すると、植志田は『お前、そんな不真面目なこと言う奴だっけ?」と返す。
「授業時間にはさすがにしないつもり。折角隠れ場所にしてる旧校舎に巡回の教師が来たら面倒じゃんか。俺も境子も、なんでか知らないけど教師たちの目の敵にされてるし」
「確かに。隠れ場所つぶされると面倒だもんね。視聴覚室とかなら、古くてもプロジェクターとかはしっかりしてるし、使いたいよね」
この時既に、植志田と伊上は海静高校の教師から因縁を付けられていた。
そんな因縁をどうでもよくする時間が、伊上にも植志田にもできたのがこの『部活』だった。
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