閑話② 我慢できなかったのよ…
木枠で出来た窓から所々隙間風が入り、もう随分とそのままになっているクリーム色のカーテンが時折フワフワとたなびいて、僅かに差し込む陽光がそのカーテンと木の床を光でなぞるように彩っていく。
特段意識したことはなかったが、こういう昔の景色は嫌いではない。
寧ろ今流行りの完全コンクリの無機質な建物のデザインより、この空気が好ましい。
どの教室が一番過ごしやすいだろうか、と伊上は考える。
建物が三階建てなのは知っているが(当時地下があることは知らなかった)、何の教室が何処にあるかは全く分からない。
ただ歩いていれば授業をサボっている他の生徒に遭う可能性もある。
さて、どこに行くべきか。
不良男子たちはバスケをすると言っていた。となると、ある程度広い空間を普通は選ぶだろう。
体育館?廊下?屋上…?
窓からはあまり手入れのされていないような中庭が見える。
人があまり選ばないような教室…と伊上が考えて浮かんだのは、視聴覚室だった。
保存されている映像機も旧式で、今は殆ど記録媒体として使われていないものだろう、と思ったのだ。
登り階段に近づくと、木の板でできた校内掲示板が側に置かれていた。
画鋲で穴だらけの校内案内図…何回も劣化で剥がれ落ちては留められてを繰り返したのだろう、既に紙色は焼けて茶色くなっている。
手書きの字のインクも消えかけていたが、幸いにも視聴覚室の文字は消えていなかった。
教室は三階の一番右端にあるようだ。
木造階段を速足で駆け上がり、三階に着いた時に丁度休み時間終了のベルが鳴った。
キーンコーンカーンコーン…コーンカーンキーンコーン…
無駄に頭に残るあの音は、旧校舎では少々ぼやけたようにどこか調子外れな音色である。救急車のサイレンが、遠くに離れていくと低く聞こえるあの現象に近いだろうか。
「…ん?電気が付いてる…???」
ドアの小窓には黒い遮光カーテンがかかっているのだが、薄っすらと光が漏れているような気がする。
勘違いかと思ったが、幕に顔を近づけるとやはり光が漏れている。
…そして、すごく聞き覚えのあるアニメの挿入歌が聞こえる。
幼稚園の頃に放送していた、知る人ぞ知るアニメ『牙王戦士~獣王伝説~』だ。
幼少期の伊上の性癖を形作り、無事破壊させた思い出のアニメである。
「唸れ俺の獣王拳!<バンチョー・ビリオネア>!!!」
中にいる男子学生?が決め台詞を叫んだ瞬間、伊上は我慢できずに教室に入った。
「この世の悪は、全て俺がねじ伏せる!!!グラッパー!!」
ドアをほぼ蹴破るように開けて入った瞬間、口上の続きを伊上は叫んでいた。
視聴覚室にいた先客の男子生徒は、突然の割り込みに硬直していた。
…腰に最近発売された、成人用のベルト玩具を付けて…。
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