39話 植志田と情報交換

「行っちゃった…よね?」

「ああ。多分俺の家に戻ってるわ、アイツ」

ヨリコが消えた後、二人はしばしの硬直の後にフーッと大きくため息を漏らした。

じゃないんだ、許してくれな、境子」

『悪い奴』の前に『性根は』とつくだろ…と伊上は心の中で突っ込む。

植志田が言葉足らずなのは分かっているから、何も言わないが。


「『部室』に行けないとなると…久々に造生川ぞうせいかわに行く?」

「あー、あそこなら確かにいいかもな。ここからも近いし。裏道入れば話しながら行けるしな」

「じゃ、決まり。チャリでここまで来たから、押してくわ」

そう言って伊上は児童図書館の駐輪場に停めた自転車を出した。


人通りも車通りもまばらな歩道を植志田とゆっくり歩く。

話ながら進むはずだったのだが、なんとなくタイミングを流しているように両者の口から話題が出ず、自転車の車輪がキイキイと鳴る音だけが気休めに聞こえる。


「「あのさ ね」」

よし、聞いてみようと意を決したタイミングも被り、二人の声が重なってしまう。

「…着いてからにするか」

「だね」

何となく気まずいが、どこか笑えてしまう。

ププッと苦笑いを浮かべて、植志田はそう纏めた。


坂を下って造生川の河川敷に着くと、いつも話場所にしていた橋の下で腰を下ろす。

通称『お化け橋』と呼ばれるこの場所は、人が怖がって近付かないので隠れ場所にはうってつけなのだ。

『お化け橋』はその昔女子高生が絞殺されて死体を遺棄された場所で、度々その霊が現れ呪われるだとか、ホームレスの男が凍死した場所だとかと色んな死の噂を聞く所で、女子高生の霊しかり心霊現象の絶えない場所なのだ。

今まではなんとも思わなかったが、強ちその話は嘘という訳でもなさそうだ。

まだ日が落ちていない今は現れていないが、強い未練を持つ何かがいる気配がする。

長居はしない方が良いだろう。幸い植志田も、同じことを思っているようだ。


「で、だ。なにからお互い言ったら良いだろうな…。んーと。境子、何かに憑かれてるのか?ヨリコみたいな存在に」

「お前も、ってことは、植志田君もあの子に憑かれてるってことね。私もなんだかよく分からないけど、幕生君って子に気に入られて…」

どうやら植志田も、伊上が幕生に気に入られたようにヨリコに気に入られて憑かれている状態のようだ。

「植志田君、会ったことないはずなのに幕生君のことすぐピンときてたけど…あの子から聞いたの?」

「あー…。姿見たのは初めてだったけどな。ヨリコが伊上にソイツが憑いてるって言ってたんだわ」

「幕生君がヨリコ?さんとは少なからず因縁あるみたいだけど、その辺りは聞いてる?」

「へ?因縁…?いや、特に。あ、でもそいつの子と聞こうとすると、何か黒笑いしてたな…」

「というか、なんで植志田君はヨリコさんに憑かれたのよ。元々色んなものには好かれやすいけどさ」

植志田は人間だけではなく、動物や霊的なものにも好かれる傾向がある。

が、生粋のオタクでコミュ障、上背はあっても筋力がないためよく榎木や陽キャ男子にいじめられて授業参加せず『部室』と呼んでいる旧校舎の視聴覚室を基地化して入り浸っていた。

伊上も頭の悪い同級生を相手にするのが馬鹿らしく、休み時間や少し休憩したいときに視聴覚室に行った際に、先客である植志田と出会ったのだ。


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