38話 植志田到着
「僕はお邪魔だろうし、また学校で会おうね、キョーコ!」
「ちょっと、幕生くん!」
頭の後ろで手を組んだ幕生は宙にフワッと浮かび上がり、『くるりんぱっ!』と言って逃げるように消えてしまった。
植志田は走るのが遅い。というより、身長だけはあるが身体能力は基本下の下だ。
坂を走って降りてくる間も、何回か息を切らして立ち止り、息を整えて…を三回は繰り返している。
「きょ、境子、うっす…」
植志田は玉のような汗を噴き出しながら、なんとか息を整えようとまだ手を膝についてゼーハーゼーハーと呼吸を静めている。
「植志田君、今日は部活動いけなくてごめんね…。それにちょっとトラブルがあって…」
言い訳がましくて嫌だが、実際色々なことが起こったのは事実だ。伊上はごめんねと手を拝むような形にして謝罪する。
「あ…さっきパッと姿を消した中坊は…」
少しずつ上半身を起こしていき、やっと植志田はいつもの立ち姿に戻る。
「幕生くんのことね。多分、学校に戻ったんじゃないかな…」
「幕生って、アイツのことなのかよ…。こりゃ、面倒だなあ」
植志田は左耳付近をガリガリと掻いた。悩み事があるときの植志田の癖だ。
「一回、情報交換しようぜ。俺も境子も、それぞれ判っていることがあるような気がしてさ」
『部室に行こう』と植志田は切り出した。
「でも、殺人事件起きたから今は学校封鎖されちゃってるでしょう?」
「あ…そうだった…ヨリコのヤツ…」
「?植志田くん、ヨリコっていう人のこと…知ってるの?」
「あー、ヨリコは…」
植志田から何故、<ヨリコ>という名前が出てくるのだろう?
【つーちゃんとウチはゲロマブなんだからねー!邪魔したらヤるよ!シャー!】
「うわっ、ヨリコ!」
瞬きを一回した間に、ヨリコと呼ばれるあのギャルが現れていた。
子供がじゃれつくように、植志田の背後から思いっきり抱き着いて彼をガックンガックンと揺さぶっている。
猫が威嚇するかのようにフーッ!と言わんばかりの睨みを利かせ、ヨリコは伊上にガンを飛ばす。
幕生は「ヨリコが憑いてる奴」と言っていた。まさか…
「なんか、気に入られちまってさ…」
【気に入られ”ちまった”ってなんなのさ!】
このこのこの!とヨリコは植志田の身体どころか頭までシェイクし始めた。
「落ち着けって、ヨリコ!」
「植志田くん、大丈夫。大体慌ててる理由が分かった気がしてるから…」
伊上が引き気味にそう話しかけると、ムッフー!とヨリコがリアルにそう言った。
意外とオタクなのだろうか?
【わーったわーった!アンタが悪い人間かどうか、見たかっただけだし!アイツに憑かれてるから、どんな極悪人かと思ったけど全然だし!ばいび=!】
そう早口の一息でそれだけ言うと、ヨリコはパッと消えてしまった。
刑事さんと話している時に現れた時の様に…だ。
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