35話② ヨリコも植志田には甘い

【つーちゃん、ゴメソ!生きてるー…??】

顔をめり込ませている植志田のことを、ヨリコが心配そうに三角座りをして見ている。

「大丈夫…だけど…オマエ、殺す気かよ…。俺の力じゃ抜けないから、引っ張ってくれな…」

植志田はなんとか呟きながら、右手で弱弱しくグッジョブと親指を立てる。

ヨリコは力加減が下手で、遭った時から植志田を床や壁にめり込ませている。

【行くよー!えいっ!】

ヨリコは鋏を消した後、植志田の背中から腹部を抱え込み、スポン!と身体ごと植志田を引き抜いた。

しばらく白目を剥いている植志田だったが、魂が抜けたような声でヨリコに問いかける。

「…確かに、今の間に静まってんな…。ヨリコ、なんか知ってるのか…?」

体力ゲージが相変わらずゼロのままで中々回復しない植志田の頬を、ヨリコは今度こそ力加減してペシぺシと叩いて遊ぶ。

【んー…まあね。つーちゃんのマブの女に絡んだから、アイツがサーチした感じ?気配とかは消してったんだけど、気づかれちゃったみたい☆】

「まさか、ヤッたのって…」

植志田はカタカタと骸骨のように震えながら、ヨリコに指さした。

【さっきも言ったけど…サーセン。ダル絡みしている先公、ヤっちゃった】

てへぺろ☆とかわいこぶって誤魔化そうとするヨリコに、怒りよりもガックリとしてしまう。

利益も損失も何も考えない、縛られないのがヨリコの特徴でもあるのだが…。

「ったく、お前は…。結構ヤバかったぞ、さっきの気配は…」

ようやく焦点が定まるまで回復した植志田は、ハアー…と大きなため息をついて指していた指をひっこめた。

ヨリコにも何か思うことはあるようで、小さく【申し訳ナス】と肩をすくめていた。


「とりあえず、境子のことは心配だからメッセ打っとく。返事来たら行ってもいいか?」

植志田は机の上に置いていたポケベルを手に取って、番号を打ち込んだ。

ヨリコは不服だったが、頭をめり込ませてしまったことに対する詫びとしてふくれっ面を作りながらも【しゃーなし!】と承諾する。

【あんまあのマブに構ってほしくないけど、つーちゃんの大事なマブダチだしねー…てか、つーちゃんあの女以外にダチいないしょ】

「ヨリコにしては引き下がってくれるじゃん。確かに俺は境子しか親しい友人はいないけど…。なんかあるのか?」

番号を打ち込み終わったあと、まだむくれながらも引き下がってくれたヨリコにニヤッと笑って植志田がそう問いかけると、ヨリコはいつものおちゃらけ具合を一瞬引っ込ませて窓の外を頬杖付きながら呟いた。

【マブがいない気持ち、ウチもよく分かるし…】



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