35話 一方、植志田とヨリコは…
【ねー、つーちゃん!どこいくのさ!】
「なんか、イヤーな予感がするんだよ…。粘っこい悪意っていうか…」
植志田はフェニクエをヨリコに見張られて強制プレイさせられていた。
ヨリコはゲームをしている時に、気づいたことをアドバイスしてくれるが、如何せん役に立たない。
斜め45度くらい見当違いなことを言っている。例えば、【このクリスタル?ってこいつが隠し持ってるでしょ?殺らなきゃ!】だの、【マップだるいね~。ショートカットしたいし~】だの…。
植志田はフェニクエは全シリーズ、外伝まで全て何週もやり込んでいるからストーリー展開や小ネタまで全部把握しているのだが…。
迂闊なことを言うとヨリコにポカポカ叩かれるので、あまり口には出さない。
フェニクエのプレイ画面を、興味津々で見ていたかと思えば、いつの間にか寝ている時もあるヨリコは厄介だが見ていて和む部分もある。
正直、植志田もこの気持ちをどういっていいか分からない。
ヨリコが強力な悪霊でなければ…と思うことがたまにあるくらいだろうか。
そんないつもの強制プレイの最中に、植志田は背筋が突然ぞわっとした。
背中を雪女がベタッと撫でていったような、そんな寒気。
そしてその嫌な気配は、一瞬ではあるが明らかにヨリコと植志田、そしてここに居ないはずの伊上に向けられたような気がする。
強い悪意というよりも、それが変質して怒りに形が寄っている。
植志田はその寒気を感じ取った直後に、その気配のした方角を窓へ飛んで行って確認する。
まだその気配は消えていない。場所は…児童図書館、だろうか。
そういえば伊上は昨日の深夜に児童図書館に行くと言っていた。
普段は高校の図書館や隣町の大学図書館に行く伊上が何故、児童書しかないようなところに行くのかと疑問に思っていた。
雑誌のデータベースも、児童書も、保管されている古地図なんかも伊上は興味がないはずだ。
そしてその悪意は、自分とヨリコにも向けられた。
――――見に行かなければ、心配だ。
植志田は着替えていなかった自作の軍服擬きのままいきなり立ちあがり、ヨリコに腰を掴まれて攻防を繰り広げていた。
ヨリコの力は生身の人間よりも段違いに強いのだが、植志田は進もうと粘る。
ぐぎぎぎぎ…と互いに一歩も引かない。
【どーせ、あの女が気になるんでしょ、つーちゃん!そんなんでフェニクエから逃げようったってそうはいかないんだからねー!!!】
「友達心配して何が悪いんだよー!それに、それは俺とヨリコにも向けられてんだぞ!!」
【つーちゃん、モーマンタイ!多分それ、静まってるし!】
「でもよ…!」
落ち着いて、とヨリコは得物の鋏の腹で未だジタバタする植志田の頭をポカッと殴った。
…植志田の頭が、床にめり込んだ。
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