34話 あの子は誰?
【そういえばキョーコ。今、キョーコは<ぎゃる>って言ったよね…??ちょっと詳しく教えてもらっていいかなあ】
しょんぼりしていた幕生は、フッと声色を変えて伊上の顔に焦点を当てた。
目の光が消え、全てを飲み込みそうなくらいに黒い瞳が伊上を捉えている。
拒否権など存在しない。拒否すれば、懐かれている伊上でも<死>を避けられないだろう。思わず伊上も、背中に汗が滲む。
だが、特に疚しいことがあるわけでもない。嘘をつくつもりもメリットもない。それに、頭の中はあくまでも冷静な伊上は疑問を抱く。
海静高校のダンジョン主であり、校内を監視している幕生があの異質な女子生徒に気づかないはずがない。
まだ真意は分からないが、この雰囲気がハッタリではないとするならば彼女は幕生の監視を掻い潜っているのか?
「私がダンジョンから出た後、狩藤先生が死んでいた…多分、幕生君が殺したんでしょう?あの先生が私をダンジョンに通じる入り口に突き飛ばしたのを、貴方は知っていた。問題は、その後。他の先生に疑いをかけられている時に、その子は現れたの。白に近い金髪に、その子の背丈と同じくらいの大きな鋏を持った女子生徒。その子が…喚いている教師の頭をバツンと斬った」
「白金髪の…。なんか、今の流行りとも違う化粧とか制服着てた?」
幕生の真っ黒な瞳が、徐々に普段伊上に接している時のような状態に戻る。
「ええ。白金髪っていっても、同級生に偶にいるような露骨に下品な色の抜き方や髪型じゃなかった。ちゃんと可愛さも残る、清楚系女優さんのような感じだったかな。化粧もケバくなくて、自然体に近い。制服も見慣れないものだけど、これもミニスカではなく逆に長くて、手元を隠していたかな。…見た目は、それなりに可愛い子だったと私は思うけど」
口調こそイマドキを意識しているのか、やる気のないギャル語を使っているが後になって考えると無理をして使っているように思える。
伊上が見たことをそのまま伝えたのだが、幕生は左手を顎に当て少し考え込むと露骨に嫌そうに眉間に皺を深く寄せる。
【アイツ…また<凶悪化>したのか…??ボクが感じ取れないなんてことはアイツの力ではあり得ない…】
ムムム…と考え込む幕生は至って真剣なのだろうが、伊上から見ると少しコミカルだ。背もまだ伸び切っていない男子が、態度だけ背伸びをしているように見える。
…そう見える、だけだ。
幕生が小声で漏らした『感じ取れないことは、あり得ない』というのも、しっかり聞こえた。そして、<凶悪化>という言葉も。
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