24-2話 児童図書館のダンジョン入り口の手掛かり

『さて、どうしようかな』と幕生は呟いた。

「ここはダンジョンの入口が巧く隠されてるから、僕でも見つけられないんだよね…管理者自体は悪意のない部類だけど、何かがおかしいんだ」

このフロアにあるのは確実らしいが、明確な位置が分からないとこじ開けられないようだ。

「…あの子に聞いてみてもいい?」

伊上が視線で指したのは、カーペットが敷かれている幼児用のスペースで体育座りしている小学校三年生くらいの少年だった。

本を読むでもなく、ただただ同じ体勢で悲しそうに座っており、時々小刻みに震えている彼の服はボロボロの薄着で、所々破れかけていた。

そんな『普通ではない』少年を、誰も気にも留めていないところを見ると彼は確実に霊なのだろう。伊上の感覚も生者ではないように捉えている。

「んー…お願いできる?」

手掛かりになるといいなと言って、幕生はその様子を見守ることにした。


「ねえ、君」

「…」

伊上はカーペットに上がり、少年に声をかける。

「どうしてそんなに寒がっているの?」

「…」

少年は目線を合わせず、微動だにしない。

だが、視えている伊上がやはり気になる部分があるのか、もう少し押せば何か反応がありそうだ。

「…お母さんを、待ってるの?」

ピクッ、と少年の肩が一瞬震えた。

「なんで迎えに来てくれないの。なんで。ずっと待ってるのに。いっつもそうだ。僕を本当に忘れたように放っておく。それでいて、適当に気をかけたような中途半端な言葉を投げつけるんだ。だから僕は諦めきれないんだ…僕は…」

今までの沈黙とはうって変わって、少年は滝のように呪詛を吐く。

異様な雰囲気を感じ取った幕生は近づこうとしたが、伊上は指で『大丈夫』と合図を送った。

まだ続く少年の言葉を、伊上はただ横で黙って聞いていた。

肯定も否定もしない。今は少年の話を聞く時だ。

時間としては10分くらいだっただろうか。少年の言葉がようやく止まり始めた。

ガス欠のように言葉が途切れ途切れになった少年はようやく我に返ったのか、ハッと頭を上げ側で穏やかな顔をしている伊上を見た。

「どうして、僕が視えているの?誰も気づいてくれなかったのに」

少年の目は、先ほどまでのヘドロを溜めたような漆黒から年相応の輝きを取り戻していた。言葉の通り、少年は誰にも気づかれていなかったのだ。

「ちょっと霊感が強くてね。色々解るの」

さらっと返す伊上に、少年はポカンとした表情をした後『変なお姉さん』とププッと笑った。

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