23話 覚悟してくれるの?
幕生はまた宙にフワフワと浮くと、背後から伊上を抱きしめた。
「浄化のお願いはしたけど、でもやっぱりキョーコを巻き込みたくない気持ちもあって。でも、それはやらなくちゃいけなくて。どうしていいか分かんなくなってる間に、新手は来るし…」
幕生の鼓動が、揺れている。伊上はそう感じ取った。
最初に出会ったときは不気味さしか感じていなかったが、今の幕生からは戸惑いを強く感じる。
だが、幕生はどう考えても生者ではない。かといって、死者でもないような気がする。彼は自分のことを管理者としか言わなかった。
「ねえ、幕生君」
「…何?」
伊上に怒られると予想したのだろうか、幕生はか細い声で返事をした。
「私は…浄化に関する力を本当に持っているのかな」
素朴な疑問だった。ダンジョンにいる思念に対する答えを導き出しているのはあくまで直感なだけで、それがたまたま当たっていただけだったのではないか。
伊上の問いかけに、幕生は歯切れ悪く『うん』という。
「普通の生者は、俺を視ることができないよ。ダンジョンにいる鎌鼬も、生者には視えない」
<視えること>が、祓いの才能を持っている証拠だと幕生は告げた。
「さっきの男は、別のダンジョンの手先。今日の夕方から、理由は分からないけど他のダンジョンから思念が漏れ始めてる。何かが動き始めてるんだ」
幕生が対策として追い払っているものの、数が多すぎて手に負えない上に人を積極的に襲っている。
「俺、勝手に決めてたはずなのに。なんで迷うんだろ。俺らしくない」
「…明日。行ってもいいよ」
およそ普段の伊上から想像できない返答をしていた。
口が勝手に動いたようだった。
「今日みたく、守ってくれるなら。試したっていいじゃない」
「キョーコ…」
「それに、毎度毎度こんな風にナニカに来られても嫌だし」
あくまで、自分の身を守るための先行投資だ、と伊上は自分に言い聞かせた。
といっても、本当に面倒に思っているわけではない。一回やれば、自分も幕生もスッキリするだろうという謎の判断があったのだ。
「じゃあ…明日の午前11時に児童図書館の子ども像前に来てくれる?」
幕生は少し考えた後、その場所を提案した。
「ここが一番弱いし、まだ抑えられるだろうから」
「分かった。児童図書館の像の前ね」
「…待ってるね」
「今日はありがとう」
伊上がそう呟く頃には、幕生の姿は消えていた。
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