20話 釈放、違和感

刑事と伊上の目の前で殺人を犯した不良少女の情報を二人で話す毎に、刑事が学生時代に見た女子生徒であることが明確になっていく。

「犯人は判りましたが…。どうしたものでしょうか。野放しにしていい存在ではないのは確かですが、伊上さんの言う通り霊的なものであれば…うーむ…」

刑事は考え込んだが、やはり答えは出せない。

「伊上さんは無実。それが分かっただけでも十分ですね。出ましょうか」

刑事は事情聴取?を終わらせて伊上を署の外まで見送っってくれた。

「ダンジョンのことも、犯人のことも何か分かればご一報ください」

「ありがとうございました。…何か分かれば、お知らせしますね」

自転車は学校に残してきてしまったので、歩いて帰るしかない。

まだ初春。息を吐くと白い煙が出てきた瞬間に儚く消えていく。

時刻は昼を回ったあたりだ。早く帰ってFFLでもプレイしよう。

そう思うことで気分を切り替え、帰り道を無心で歩く。

コッコッ、とアスファルトの上で刻む靴音しか聞こえないことに気づいたのは家まであと半分の距離を歩いた時だ。

住宅街とはいえ、この時間は異様に人通りが少ない気がする。いつもなら一、二台は車が通り、奥様方が井戸端会議をしている時間なのになんの音もしない。家からの生活音も聞こえない、極端な無音である。

「…こんなに静かだったかな」

まるで学校のダンジョンに初めて入った時のようだ、と伊上は思った。

まさか、何かが起きている?

嫌な予感が増幅していくが、今は帰ることを優先することにした。

不気味とも思える帰り道をひたすら歩き、ようやく家の玄関にたどり着くと鍵を開けて中に入った。

伊上に家族という存在はいるが、彼女にとっては空気のようなものだ。

相手にする必要はない。

居間を通り抜け、自室に駆け込むと一つの変化に気づく。

FFLのペットボトルキャップのフィギュアが無くなっている。最推しの鬼街がないのだ。

部屋や他の物は荒らされておらず、鬼街だけが忽然と消えている。

「な、なんで無くなってるの…?」

コンビニの限定商品だったが、そこまで相場は高くないものだ。他にも希少なフィギュアに手を出されていないのが不思議である。

慌てている伊上だったが、クローゼットの方から奇妙な気配を感じる。

幕生に感じたような、人ならざる違和感?に近い。

もしや、何かがいるのだろうか。

ゴクッと生唾を飲み、意を決してクローゼットを開けると奥の隅に何かが居る。

虫か?と思ったが、ライトで照らすとその正体が見えた。

ダンジョンで見た、小さな鎌鼬のようなげっ歯類系の生物だった。

鎌になっている手で器用に身体よりも大きい鬼街のフィギュアを抱えている。

犯人はこの生物のようだ。

「…。それ、大事なものなの。返してくれる?」

静かにそう伝えると、その生物はまるで漫画の表現のように目を丸くし『チチッ!!』と鳴いて黒い煙になって消え、その場にカランと鬼街のフィギュアが落ちた。

「なんでダンジョンにいた生物が私の家に…?」

登校再開したら、幕生に聞いてみよう。

頭の片隅にその考えを置いておいて、今はFFLのゲームに勤しむことにした。

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