19話 つーちゃん
【萎えぽよ~…】
「ヨリコ、またどっか行ってたのかよ…って、その鋏!お前、またヤッたな?」
不良少女は海静高校の旧校舎三階、理科準備室に戻ってきた。
本来全員帰宅させられているはずだが、そこには一人の男子学生が潜んでいた。
植志田通史(うえしだ・みちふみ)。身長は190近くあるが身体はモヤシ体型で貧弱に見え、顔も悪くはないものの無造作ヘアの黒髪は本人はイケていると思っているが周囲の女子からは不評である。自他ともに認めるオタクであり、伊上の唯一の友人だった。植志田だけは、伊上と変わらず交友関係が続いている。
オタクということで嫌われるため、今日も伊上と誰も来ないこの理科準備室で待ち合わせていたのだ。植志田は元々、授業をさぼっていることが多いため誰も探さなかったようだ。
伊上以外に学校で接点のある人物はいない、いわゆるぼっちなのだがここ数日この不良少女にやたらと好かれるようになってしまった。
ちょうどこの存在の話を伊上にするため、待っているのだが伊上は姿を現さない。
集団下校の放送が流れても、植志田は伊上が来ないとは思えなかったのだ。
【だってさー。つーちゃんのマブ、くるくるぱーに絡まれてたしー。ウチはどっちかっていうと助けたんだよ~?それなのにさ、ウチの元カレは視えなくなっちゃってるし…】
ヨリコ、と呼ばれた女子生徒はフワフワと浮きながら植志田の肩に手を回しヌルッと抱き着いた。相変わらず距離が近い。
「ちょっと待て。境子がまた絡まれてたって?」
伊上がやたら嫌われることを知っていた植志田が眉間に皺を寄せると、それまで幸せそうに植志田にすりすりしていたヨリコはむくれながら弁明する。
【…そ。サツに引き渡されてたからさすがに見過ごせなくて。ウチがヤッてなかったら多分アイツにミンチにされてるよ】
ヨリコがアイツと呼ぶのは、この学校そのものである幕生のことなのは知っている。
「殺すなよってあれだけ…。まあ、遅かれ早かれか…ハハ…」
ヨリコには何を言ってもあまり効き目はない。彼女はそういう存在だからだ。自分に懐いたのが不思議で仕方がないくらいだ。
「境子は、今どこに?」
【最寄りの署だよ。まあ、もう話は終わるみたいだし、アイツも迎えに行ってるし。つーちゃん、今日はウチと一日遊ぼ!】
ヨリコはここに居ても仕方ないし!と言わんばかりに未だ渋い顔をしている植志田をその身体からは想像もつかないような力でグイグイ引っ張り、教室から引きずり出していった。
(境子…大丈夫かなあ。俺としては、行ってやりたいんだけど)
「どこにいくんだよ?」
【つーちゃんの家に決まってんじゃん!一今日こそフェニクエⅢクリアだよ!】
「まだ序盤だぞ?あれはやり込み要素多いんだから今日で終わんねえよ…」
【そこは徹マンしょ!さ、やろ!】
「ちょ、おま、引きずっていく気か!?」
【あ、メンゴメンゴ!飛ぶね!】
いっけね、とヨリコがかわい子ぶると、瞬きをした間に植志田の自室に着いていたのだった。
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