15話 刑事と話す

「待ちなさい!」

そう伊上が叫び解放されていた右手が、凍り付いた空気の中で空しく差し出される。

たった今起きた出来事が、警官たちには信じられないでいた。

だが、教諭の身体が力なく床に倒れこんでいく動きと、充満してくる血の匂い、そして目の前に転がる綺麗に斬られた男の上頭がある以上、これは現実なのだと思い知らされる。

他の教諭たちは硬直時間が解けた後、怯えきった様子で口々に『伊上の呪いだ!』と叫びだした。

「見たでしょう!この生徒はこうやって気に食わない者を呪って殺すんです!」

「ああ、私たちの命も危ない…!全く忌々しく恐ろしい生徒だ…!」

「早く連れて行ってください!おぞましい…!」

「…黙りなさい」

「ヒッ…!」

発狂じみた罵声を浴びせる教師たちに我慢ならなくなったのか、ついに刑事は一言発する。その声には威厳があり、有無を言わせない迫力があった。

「この子は私たちに確保されていた。そしてその被害者からも離れていた。そして私たちには視えていない何かを捉えている。それなのに、何故この生徒さんに殺されたと断言できるのでしょうか?寧ろ貴方達の方が、何かに囚われているようだ」

「私たちは事実を述べています!」

この期に及んでまだ物申す教諭たちと話しても埒が明かない。

警官を半数残し、刑事は伊上をとりあえず校舎の外へ連れ出し学校関係者がいない状態で話を聞くことにした。

まだ聞くに堪えない怒声を浴びせる教諭二人を、警官が静止しているのが伊上にも見えたが、気にしないことにする。

手錠をかけられることなく、敷地内に止められているパトカーに丁重に乗せられ、車は走り出す。

連れられて行ったのは、学校から10分程の所にある丘下警察署だった。

尋問室に案内され、ドラマでよく見る一対一の椅子に座らされる。

「さて。お話をお聞かせ願えますか?」

刑事が静かに向かいに座り、目の前で手を組む。

「まず、名前を」

「…伊上境子です」

動じる必要はない。何故ならば自分は何もしていないのだからと心に折り合いをつけて名前を述べた。

「貴方は最初の被害者の第一発見者ということでよろしいですね?」

刑事ははっきりとそう問いかけてきた。

「…疑わないんですか、私のこと」

思わずそんな言葉が口から洩れてしまったが、刑事は優しく微笑んだ。

「貴方はずっとあの学校で疑われ、疎まれ続けていたのでしょう。『私と同じように』」

「刑事さんが…同じ、ですか?」

刑事はゆっくりと、縦に頷いた。




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