14話 状況を更に悪化させる
10分と立たないうちに、警官が駆け付けた。
電話口で教諭が『凶悪犯』と言っていたせいか、人数は10人くらいいた。
「犯人はその女性ですか?」
刑事と思しき者が問いかけると、『そうです!』と未だ伊上を組み伏せる教諭が喜々とした声色で伝える。
教員の目の輝きとは真逆に、警察関係者の視線は困惑を隠しきれていなかった。
教員たちの興奮ははっきり言って異常だった。
伊上を捕らえて強引な力で組み伏せていることにも誇らしげであり、『やってやった』という戦勝感に心から浸っているようだった。
一応現場検証を始める為に警官を振り分けると、刑事は落ち着いた声で
「証拠は?」
と教員に聞いた。すると組み伏せている教員たちは自分たちが伊上が側で困惑しているのを見たこと、そして今日は既に学生は皆強制下校になっており、ここに生徒が居るはずがないことを興奮冷めやらぬ声で伝える。
「…」
「元々この生徒は生活態度が良くないことで校内では有名でした!我々教師にも反抗的で、指導をしても根に持ち反撃するような生徒です!」
「狩藤先生が熱心に指導をしていたのを恨んでいた様子でしたし!」
ワァワァと年甲斐もなく土石流のように次々と私見を述べる教師にうんざりした様子で、刑事は警官を二人割り振り伊上を確保しようとした。
「こいつ、何するか分からない生徒なので。くれぐれも気を付けてください」
引き渡す際にもダメ押しをするように教諭が強く主張する。
「一応、署へ。話は私が聞く」
「はっ!」
ニンマリと気持ちの悪い笑みを浮かべる教諭たちだったが、警官の姿勢は柔和だった。
『立てるかい、君』と一番若手の警官が小声で囁いた。
<凶悪犯>と伝えたのに穏便に護送しようとしたところを、教諭たちは睨みつける。
あれだけ危険だと言ったのに。
主格の教諭は我慢ならず、いちゃもんと言わざるをえない注文をつけようと口を開いた瞬間、また事は起こる。
【つーちゃん、これは我慢できないね】
ハッキリと聞こえる、同年代くらいのギャルの声。
その言葉が終わる頃には、バツンという鋏でコードを斬った様な音が一瞬響き、主格の教諭の鼻から上の頭半分がゴトンと音を立てて床に落ちていた。
「!?!?」
その場にいた誰もが、目を疑った。
この場には教諭たちと、駆け付けた警察、そしてしっかり両腕を掴まれている伊上以外は誰もいない。
教諭の断面でさえ、斬られたことを感知できなかったのか今になって血を吹き出している。
そして、また時が止まる。
伊上が反射的に目を逸らしているのを、誰かが目の前で見ている?
【こっから先は、アタシの管轄外だし。とりま頑張ってね~】
伊上が正面を向くと、白に近い金髪に緩くパーマを当て、やはり見慣れぬ制服を着ている萌え袖の不良女子が片手に背丈くらいある鋏を持ってフワッと浮きながら伊上にピースサインを作っていた。
「待って、今のは貴方が…?」
【バイビー!】
伊上が捕まえようとするも、その女子生徒は屈託なく笑って粒子が弾けるように消えてしまった。
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