13話 最悪のタイミング

流石の伊上も、やや慌ててフロアの電気のスイッチを入れた。

いつものように何か喚こうとしたのだろう、横を向いた遺骸の顔は目を見開き怒鳴りつけようとした顔つきだった。

右腕は曲がっており、人差し指を伸ばしている所を見ると何者かに因縁を付けようとしたその瞬間に殺されたのだろうか。

電気を付けると、遺骸の生々しさが増す。

殺されてまもないのか、腐臭の類もしない。本当に『ついさっき』殺されたようだ。

死因は電気を付けたことですぐに分かった。

――――後頭部が、綺麗にくり抜かれて脳が丸ごと無くなっている。

よほど器用に、且つ手早く抉られたのか血液が狩藤の周りにポツポツと数滴落ちているだけで、グロ映画にあるような血しぶきや血だまりというものは全く見受けられない。だが狩藤の傷跡を詳しく眺めると、神経や血管はある意味力任せに無理やり引き抜かれているようだ。

(まさか…)

まだ確定ではない。それでも、こんな状況を作り出すことがができるのは彼しかいない。

名前を呟こうとしたその時、よく知っている女教師の悲鳴が階段の上から響き渡った。この状況を見てしまったのだろうか、階段の踊り場に教師がショックで倒れこんでいた。

その不意に聞こえた悲鳴で判断が鈍った間に、ドヤドヤと男性教諭三人がなだれ込むようにこの現場にやってくる。

「どうしました、田口先生!…って、うわああああ!」

「伊上、何故こんなところにいる!」

「お前が!お前が殺したんだろう!」

「私は何もやってない!」

伊上が反論する前に、若い男性教諭が伊上を床に乱暴に組み伏せた。

「狩藤先生!狩藤先生!」

「脳みそがない…!?!?」

二人が慌てている間にも、伊上を取り押さえている教諭が指示を出す。

「とにかく通報だ!犯人は押さえていると連絡を!」

「違うって…!」

「黙れ!」

何とか拘束を解きたいところだが、的確に関節を取られている。

それに男女の差はさすがの伊上でも埋められない。

一人は田口の安否確認をし、もう一人は狩藤の側で警察に通報している。

「お前、遂にやったか。そうだよなあ、お前は全部を目の敵にしているもんなあ!」

教諭は伊上の首を右腕で強く締め上げ、彼女の口からはカヒュッという息が洩れる。

「だが、殺すのはアウトだろう。頭だけが自慢だったのに全てを棒に振った!」

この接点のない男性教諭にも、伊上は疎まれていたようだ。

一体自分が何をしたというのか?

たった一人の友人としかコミュニケーションはとらないが、榎木のように誰かをいじめることもしていないし、傷つけることもしていない。

教師にも悪態を付いたことはない。ただテストで結果を出しているだけだ。

それなのに、何故?

元々物心付いたことから、伊上は人に嫌われた。

親でさえ、伊上のことを腫れ物に触るように扱う。

何も、していないのに。

あくまでも常識的な趣味を中心に楽しんでいるだけなのに。


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