8-5話~再会~

誰に、とは敢えて聞かなかった。

その読みは当たっていて、まもなく澄川は

「その時に聞こえたのは、サコさんの嗤い声だった…」

と呟いた。

サコとその取り巻きは人間の屑なのは分かっていたが、ここまでとは。

「でもね」と澄川は言う。

「私、生きてた。もう夜になって真っ暗になってたけど、気を失っている間に体の痛みも取れたみたいで。手探りで歩いていたらここに…理科室にいたんだった」

澄川の時代は街灯が一切なく、夜になればこの海静高校は暗闇の中に消えると評判だったようだ。

「理科室にずっといたけど、サコさんたちの声以外にも気になることがあって…」

澄川が『そろそろその時間』と言った瞬間、理科室の後ろ扉が強くガタガタと全体を揺らされるように音を立て始めた。

それは立て付けが悪いという訳でもなく、本当にその存在には理科室を開けたくても開けられないようだ。

前方の引き戸から入れば良いのでは?と思ったが、先ほどサコに開けられていたはずの引き戸はいつのまにか閉まっており、伊上が開けようとしてもガチガチに接着剤で固められたようになっていて開けることができなかった。

「え、伊上さん…!?」

伊上は『少し待ってて』と言い、ガタガタ揺すられる後ろ扉に近づいた。

大丈夫、と謎に納得する。これはサコのような悪意ではない。澄川に対してかは分からないが、必死に理科室の何かを探している。

「大丈夫だよ、澄川さん」

「でも…」

「きっと、どっちも探している人だから」

そっとドアノブに手をかけると、外の相手の必死さが伝わってくる。

カチャン―――。

伊上がかかっていないはずのカギに触れた瞬間、力任せに揺すられる音はピタリと止まった。

「どうぞ」

内側からドアを開けると、そこに立っていたのはやや長めの髪で右目を隠している少年だった。ドアが開いたことに戸惑っているようだ。

「入ったらいいよ」

理科室に入るよう促すと、少年は音を立てずにスーッと伊上の身体を風のようにすり抜けていった。

「澄川…!!!」

「大賀君…!?」

この少年は大賀という生徒で間違いないようだ。

大賀は迷いなく澄川の元へ駆け寄り、強く彼女のことを抱きしめた。

「やっぱり、ここにいたんだな」

死んだはずの大賀がここにいることに、しっかりと抱きしめていることに澄川は理解が追い付かないようで、何かを言いたくても言葉が出きらずに口をパクパクさせている。

「澄川がここにいることは分かってたけど、入れなくて…。サコの奴がこの辺りをウロついても、俺からは何もできなくて…」

二人が何故ここで会えたのかは、理解できていないようだ。

「…説明、しましょうか?私の考察でよければ」

伊上は黙っていようと思ったが、二人の混乱っぷりを見て助け舟を出した方が良さそうだ。

「開けてくれたアンタには、感謝するよ。でも、俺たちと制服が違うな…??」

「ちょっと澄川さんたちとは、世代が違うから」

「そうなのか。じゃあ、信じるしかないよな。俺も制服の違う生徒、他にも見かけたし」

なかなか大賀は単純思考のようで説明しやすそうだ。


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