8-4話~澄川の真相~
サコの悲鳴が教室中に響く中、斬られた足がボトッと遠くで落ちる。
取り巻きたちはサコに駆け寄るが、彼女たちの足元にも何かが蠢いているのが見えた。
『サコ様!』と取り巻きの一人が声を上げると、取り巻きたちの差し出した左腕がスパッと勢いよく斬られ宙を舞う。
『『『イヤアアアア!!』』』
伊上は床に伏せたまま阿鼻叫喚の状況を見ていたのだが、蠢くものの正体が判ったのは自分だけのようだ。
彼女たちの腕を切断したのは、奇妙な存在。
人の顔に鼬の身体をくっつけ、両手は見るからに鋭利な鎌となっている生物?のような存在。生物というのに疑問符をつけるのは、その体がまるでパソコンの画面に映し出されているように、現実に肉体を持っているようには見えなかったからだ。
人の顔は確かに伊上の顔を見て、ニッと笑って煙のように消えてしまった。
「なんで…なんで私が罰されるの!おかしくない!?」
「「「その通りです!!なんで私たちがこんな目に合わなければ」」」
「悪いのはみすずの方でしょう!?陰気で地味で貧相で、なんの取柄もないこいつが何故あの人の寵愛を得るの!?」
どうやらもうサコと取り巻きは発狂しているようだ。
そして伊上は確信する。サコたちは榎木と同じく、この異空間に燻る残留思念だと。
「性格のひん曲がったあなたたちを日常で見ていれば、すぐに本性が腐っているとばれるでしょう?澄川さんが綺麗だったから選ばれただけ」
立ち上がりなんの情も込めずに告げると、サコと取り巻きは地獄に引きずり込まれる者のような断末魔の声を上げ、榎木と同じように黒い塵となって消えていった。
「…さて。これでいいと思うんだけど」
黒い塵が付いていては不快とばかりにパンパンと制服を掃ってから、振り返って澄川の様子を確認する。
目に涙を溜めていたが、その顔は先ほどまでの思いつめた表情と違い、どこかスッキリしたものに変わっていた。
改めて澄川を見ると、髪型が時代を感じるだけで、綺麗な顔立ちをしている。
そして先ほどまで光がなかった瞳は輝きを取り戻し、綺麗な茶色の瞳の中に流星が流れているようだった。
「あの。ありがとう」
澄川はモジモジしながらまず伊上にお礼を言った。
「私はサコさんの言う通り、なんの取柄もないの。人とうまく話せないし、勉強も運動もできないし。でも、何故かサコさんが好いていた男子…大賀君に話しかけられて」
「そこからいじめにつながった、か」
「大賀君もサコさんを諫めてくれて表向きは収まったんだけど、裏でエスカレートしちゃって…」
澄川の目から、我慢していた雫がポタッと落ちた。
「…大賀君も、死んじゃったの」
大賀少年は持病があった。定期的に薬を飲まなければ死んでしまうのだが、何者かがその薬を偽薬と入れ替えた。
入っていた野球部の活動中に倒れ、そのまま亡くなってしまったのだと澄川は肩を震わせながら話してくれた。
「その日はよく晴れた日だったのを、覚えてる。訃報を聞いて放心しちゃってその日の授業は何にも頭に入ってこなかった。放課後に、校舎の最上階に行って、グラウンドを眺めに行って…」
『誰かに突き落とされた』と、澄川はハッと思い出したように呟いた。
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