第8-3話 異空間探索~鎌鼬?~

まるで地獄の業火に焼かれ、生命力を全て持っていかれたような腕は見ているだけでその凄惨さが伝わってくる。

チラッと背後にいる澄川の顔を見ると驚きを隠せないでいるようで、彼女が起こしたことではないと思われる。

「で、アンタはなによ?みすずの友達?…そんなわけないよね、みすずに友達なんているわけないし!」

右腕を隠しながら、女学生は意地の悪い笑みを浮かべる。なにがあったのかは分からないが、この女学生の澄川に対する認識は随分ひどく歪んでいるようだ。

「いじめっていう頭の悪い行為をする人に名乗ってもねえ。貴方の方こそ、友達はいなさそうだけど?取り巻きの人たちも含めて」

ド直球で言葉を返す伊上に、澄川も女学生たちもポカンと口を開けてしまった。

「だ、だめ…!サコちゃんにそんなこと言ったら…!」

澄川が伊上にしか聞こえないくらいの小声で慌てて止めるが、伊上は視線をサコとい

う女学生に向けたまま黙っていた。

サコはしばらく伊上から放たれた言葉を飲み込むのに時間がかかっていたようだが、意味を咀嚼すると後ろに控えていた取り巻きに顎で指示を出し、伊上に圧をかける。

「随分伸びてるその鼻っぱし、折ってやろうか?」

先ほどまでの砕けた口調とはうって変わり、まるでチンピラが使うような語句に変わるが、伊上からみれば子供が精いっぱい粋がっているような痛い言葉にしか思えない。

「い、伊上さん」

「いーから。澄川さんはちょっと目を瞑ってて」

澄川もサコも、一見ひょろっとした貧弱な伊上がどうしてここまで強気に出られるかが分からなかった。

サコは右腕こそあの状態なものの、女子にしては高い身長と、運動部で鍛えたと思われる身体つきをしている。そして取り巻きたち(おそらく同じ部だろう)も、腕力が強そうだ。同世代から見れば、囲まれればかなりの恐怖を感じる者が多そうだ。

死んだ魚のような目つきをしている伊上を取り囲んでいた取り巻きは、いよいよ乱暴に伊上を一斉に床に叩きつけるように組み伏せ、サコは歩を進めて右足で伊上の頭を強く踏みつけた。

「不快だわ、アンタ。痛い目にあったことなさそうだから、この際徹底的に教育してあげる」

ゴリッという、砂利を踏んだような音が伊上の脳内に響いている。

それでも伊上は心拍数も上がらない。『まもなく』なのが判っているからだ。

「まずは背中から。あんた達、しっかり押さえてなよ」

「「「うす」」」

「伊上さん!」

サコはスパイクのついている運動靴の先で思いっきり伊上の背を踏もうと足を振り上げた――――が、次の瞬間悲鳴を上げていたのはサコの方だった。

「あ、足が…!?斬られている…!?!?」

さきほどまでしっかりとあったサコの右脚は、膝の下からすっぱりととてつもなく鋭利なもので斬られたように綺麗に無くなっていた。

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