第2話ホムンクルスの騎士

 ホムンクルスには沢山の兄弟がいる。しかし、誰とも会うことなく今までずっと一人自由気ままに旅をしてきた。

 人と魔力のつながりを願い作られた彼は、どこにいても人と関わりを持ってきた。しかし、人より膨大な時間を与えられた彼は一人ぼっちだった。



 * * *



 遥か昔、禁忌の術である錬金術を使用した罪で捕まった大罪人がいた。彼は錬金術で人造人間ホムンクルスを創ろうとした。

 錬金術は、魔法と魔術を混ぜ合わせた術とか、それらとは全く別の原理で行われる術とか言われている謎の術だ。錬金術に関することに触れことさえ禁止されている。

 彼の研究室からホムンクルスに関する大量の書類やフラスコが見つかったらしい。ホムンクルスが誕生する前に捕まったため彼の研究は闇に消えていった。今では彼とホムンクルスのことは、おとぎ話となっている。錬金術は人を惑わせる禁忌の術だと。

 しかし、彼の研究は完成していた。彼がこの世に生み出したホムンクルスは九体。その最初に生み出せれたのが、魂をかたどったホムンクルス。それが、オズワルド。


 長い年月旅をしてきた。一つの所に留まろうとしなかったのは移り変わる世界を見たかったから。


 その時風の大国に訪れたのは、友人のリヴァイ・ヴィントに娘が生まれたと聞いたからそれを祝うため

 城に着くとリヴァイの元に向かう。その途中、庭園で彼の娘を見た。すでに成長しており十歳ほどになっていた。彼女は、リヴァイの亡き奥さんに似ていた。髪と瞳の色はリヴァイのものだが、それ以外の容姿はまんま彼女。なにより柔らかい笑みがとても似ている、そんな印象を持った。

 リヴァイとは話したが、彼女とは直接会うことなく俺は旅を再開させた。


 それから約二年後。

 風の大国で事件が起こった。王宮が火事に見舞われ沢山の死者が出た、その中に、リヴァイもいた。

 その後、彼の娘である王女フィオナ・ヴィントが新しい王になった。

 若干十二歳で女王となった彼女を見守るため俺は、王宮騎士となった。平民として入団したため最初は風当たりが強かったが、団長のイーライのおかげでそれも次第になくなって来た。


 フィオナは、最初良き王となるために勉学や政治を頑張って来た。なれないだろうことなのに弱音を漏らすことなく。しかし、次第にそれも陰っていった。

 最初は小さな我儘だった。我儘だけならよかった。それくらいなら誰だっていう。それを許容すると次に暴力、散財。意味のない処刑。彼女は次第に暴君となっていった。

 多くの民が彼女の犠牲となりだした。重くなる税金に国民は不満を募らせていった。


 このままでは不満を爆発させた国民たちの手によって今の地位を追い出されるだろう。分かり切った未来にここを去ろうと考えていた時だった、彼女に近づく機会が来た。ここで、国王の器かどうか見定めてみようと思った。器ならリヴァイの友として彼女を良き方向として導き、器でないなら切り捨てようと。


 ある昼下がり、もうすぐでフィオナが毎日楽しみにしているティータイムの時間。しかし、その主役が見当たらない。焦った女官長がイーライに捜索要請。

 イーライは、副団長を含めた五人を選んで捜索するよう命令した。その中に俺が入っていたのはただの偶然だったのだろうか。


「最悪、何で突然いなくなるんだよ。大人しくしてろよ、暴君が。オズ、お前もそう思うだろ」


 先輩がそう言ってきた。誰が来ているかもしれないのに、怖いもの知らずだな。俺は、何も言わず笑ってごまかしておいた。


 確かに彼の言う通りだ、大人しくしていれば今日の被害はなかっただろう。もし、ティータイムに間に合わなかったら、よくて女官長だけが悪くてこの城で働く多くの人がフィオナの癇癪の犠牲になるだろう。そうならないように早く探しださないな。

 さすがに城内にいるだろうが、この広い城を無暗に探し出すのは時間が掛かる。確実にティータイムに間に合わないだろう。


 魔法を使って探すために人の来ない場所に移動した。俺が魔法を使えることは誰も知らない。そもそも皆俺のことを人間でないとは思ってもいないだろう。

 一応辺りを見わたして人がいないことを確認して魔法を使う。


 フィオナは城内にいた。

 ただ、いたのは城内にある歴代の王族が眠る墓地がある場所。


 どうしてこんなところに?

 不思議に思ったが、時間が迫っている。考えるのは後にして目的の場所に向かった。


 墓地に行くと少女が一人うずくまっていた。癖のない金髪も波のように地面に広がっている。


「こちらにいらしたんですね。殿下」


 声をかけるとリヴァイと同じ蒼色の瞳が俺を驚いた様子で映した。

 この国で彼女のことを、女王陛下と呼ぶものはいない。フィオナが国王に即位した日彼女は女王と呼ぶことを禁止したのだ。「まだ、未熟者だからその言葉にふさわしくなるまで取っておいて欲しい」と。だから、彼女は未だに王女様と呼ばれている。


「誰?」


 柔らかい声とは裏腹に警戒した冷たい声。


「王宮騎士団第一部隊所属のオズと申します。侍女が探しておりましたよ、帰りましょう。」


 フィオナに手を差し伸べる。

 

「なぜ?」


 不機嫌さを隠すことせず、フィオナが眉を顰める。言い方が良くなかったか?難しいな。


「もう少しでティータイムでしょう、遅れてしまいますよ」


「そう、今頃必死に探しているのね。殺されたくないから」


 知っているのか。驚いた、侍女たちはそういう噂を彼女の耳には入れないと思っていたから


「違いますよ。殿下はこのティータイムを楽しみにしていられるでしょう。彼女たちはそれを台無しにしたくないんですよ。殿下のことが大切だから」


 フィオナは驚いた表情をした。俺何か変なこと言ったか?


「そうか、お前に免じてもう帰ろうかしら。侍女を困らせる主ではないもの」


 そう言うとフィオナは不敵に笑って見せる。お前の命令で戻るのではないと、言うように


 オズに差し出された手を取ることなく、フィオナは立ち上がり王宮に向かって歩き出した。


 翌日。

 オズは文官に呼ばれフィオナの執務室に連れて来られた。そして今、真面目に公務をこなしているフィオナの前に立たされている。

 何が起こるのかとビクビクする文官に対して、フィオナはご機嫌に笑っていた。


 バンッ


 乱暴に開けられたドアから入って来たのは、焦った様子のイーライ騎士団長だった。オズがフィオナに呼ばれたと誰かに聞いて慌ててこちらに来たのだろう。


「何か用があるなら、侍女に行って事前に来ることを伝えなさい。礼儀がなっていないんじゃなくて?」


 皮肉交じりにフィオナは、イーライに言った。

 たとえイーライが騎士団長だとしてもフィオナに対して緊急でない限り謁見許可は必須だ。


「申し訳ありません。私の部下が呼ばれたと聞きましたので、彼が何かしましたか?」


 イーライは深く頭を下げて言った。

 彼は、暴君のフィオナに唯一諫められる人物だった。それは、単に騎士団長というこの国の軍部の頂点に立つ彼を裁けないだけ。もし、彼を他の者と同じように罰を与えれば周りの者が黙っていない。

 フィオナが何かするたびにイーライがそれを止める。その為、彼らは非常に仲が悪かった。


「何か、したな」


 そうフィオナが言った瞬間、この部屋にいた文官たちは今日の犠牲者はあのオズという騎士かと思った。

 さて、ここからどうやって逃げようかな


「こいつは昨日無礼にも私に命令した」


「本当か、オズ」


 イーライは、オズに審議を問う。どうか否定して欲しいと顔に書いて。


「そうかも、しれません」


 オズの言葉にイーライは顔を青くさせ、フィオナは愉快そうに声を上げて笑った。

 フィオナがそう言うのだ、そういう風にとらえられたのだろう。


「オズ、私の護衛騎士になりなさい」


 予想していなかった言葉にこの場にいる者全員驚いた。誰もが、王女の機嫌を損ねたオズが処刑されると思っていたから

 その言葉を言った張本人は、愉快そうに微笑んでいる。


「駄目です」


 答えなのは、イーライだった。


「騎士団長には聞いていない」


「彼は私の部下です。そういうことは、私に通してください。それに、殿下にはもう護衛騎士がいるではありませんか」


「役立たずのな。オズを私にくれないというなら、今の護衛騎士たちは皆処刑だ。罪名は、王女を守れなかった。どうだ?オズ、お前に貴方に来ているの。私の騎士になる?それとも、他の騎士たちと一緒に死ね?」


 生か死か、二択を問う彼女の様子は変わらない。フィオナにとって他人の死に興味ないのだ。

 この王女はどうしてそんなことを聞くのだろうか?ただの暇つぶしか、それともお遊びか。どちらでも構わない、丁度いいこれで彼女の近くにいられる


「それは、」


「謹んでお受けいたします」


 イーライの言葉を遮って、オズが答えた。


 この日、この瞬間フィオナの護衛騎士にオズが加わった。


「だ、そうだよ。騎士団長」


 嬉しそうにフィオナが言った。

 年相応に喜ぶフィオナ。それだけ見ると、ただの少女に見えた。

 イーライは、オズに何も言わず苦虫を噛んだかのような顔をして出て行った。


「オズ、彼のことどう思っているの?」


「尊敬しています」


 質問の意図が読めずとりあえずそのまま思ったことを答えた。


「そう、彼私に対して不敬でない?邪魔よね、ねえオズ彼を処分してきてくれない」


 まるでおつかいでも頼むかのように軽く言うフィオナ。

 これはなんて答えるのが正解なんだ?彼女に殺されるの気はないが、お咎めはくらうだろう

 答えられずにいると、


「冗談よ。今日はもういらない。私は自室に戻るから、また明日ね」


 と言って、ひらひらと手を振ると執務室から出て行った。

 ついていこうとすると文官の一人に止められた。

 曰く、王女は絶対に自室に誰も入れないとか。侍女さえも。王族であるにも関わらず身の周りのことはご自分でなさるらしい。

 人と壁を徹底的につくっているんだな


 彼女の護衛騎士になって数日後、ある大きな事件が起こった。

 騎士団団長イーライ・ホランが自宅の自室にて遺体で発見された。

 この事件で一人の騎士が捕まった。男は黙秘を続け、獄中で口の中に仕込んでいただろう毒で自殺した。男が自殺したことにより、この事件の真相は闇の中に葬られた。

 ただ誰もが思った、イーライを殺したのはフィオナだと。


 誰もが犯人が彼女であると心の中で思っていても、オズはその可能性は低いと思っていた。

 フィオナなら、こんな手を使わないはずだ。女王である、フィオナがその気になればたかが騎士団長を即処刑できただろう。大勢の目の前で見せつけるように。自分に逆らうとどうなるか分からせるために。しかし、今回の事件はそうでなく暗殺。

 だから、フィオナが犯人である可能性は限りなく低い。


「陛下は、中にいらっしゃいますか?」


 フィオナのいる執務室の前。

 今日は誰の訪問も無かったはずなのにこの女性は誰だ?


 フィオナに会いに来た一人の女性。

 燃えるような真っ赤な髪に、憎悪を隠そうとしない吊り上がった金色の目


「約束はされていますか?」


 聞いていないだけかもしれないので一応問う


「いいえ、けど、どうしてもお会いしたいんです。会わせてください」


 貴族でなくても、平民でも知っている王族に会うには事前に謁見許可がいる。それを知らないはずがないはずなのに、この女性は会わせろと言う。


「申し訳ありません。約束が無い方は会わせられません。陛下もお忙しいので後日謁見許可をおとりになってお越しください」


 誰であろうとそう簡単にここを通すわけにはいかない。それが仕事だし


「 …のくせに」


 ?あまりに小さい声で聞き取れなかった。何て言ったんだ?


「 人殺しのくせにっ 」


 女が叫ぶ。興奮気味で今にも襲いかかってきそうだ。

 大きい声で、誰か中から出てくるかと思いちらっとドアを見るが何もなく気づいていないことにほっとする。


「あの女は何の罪もない人を、父を殺しておきながら何も知らないふりをしてのうのうと生きている。私は、あいつを許せない」


「だから、会いたいと?殺されなすよ?」


 この人は自殺願望でもあるのだろうか。フィオナが機嫌を損ねれば誰であろうとその場で殺される。


「だから?大切な家族が殺されたのよ。このまま黙っていろと?あなた騎士でしょう、団長が殺されたのよ、憎くないの?」


 イーライが死んだことは惜しく思っている。けど、フィオナは殺していない。フィオナを恨むのは筋違いだ。しかし、それを言ったところで誰も信じない。それは、フィオナの行いが原因。だから、言う気にはならない。


「ご令嬢、一度落ち着いてください。復讐なんて何も生まれませんよ。お父上も復讐なんて望んでおられないと思います」


 この女性は恐らくイーライの一人娘だろう。聞いたことがあった。イーライには、結婚適齢期を迎えた娘がいること。婚約者もいないから困りながら、そこか嬉しそうに語っていた。

 名前は確か、モニカ・ホラン

 醸し出す雰囲気がよく似ている。


「今日は、お引き取りください」


 怒りを鎮める精神系の魔法、この数分間を忘れる忘却魔法、家に大人しく帰らせるために行動魔法の三つの魔法を同時にかける。もちろん周りに誰もいないことを確認し、尚且つこの城を被っている魔法・魔術探査に引っかからないようにして

 モニカは先ほどの勢いが嘘のように静まり来た道を帰っていった。


 面倒ごとは嫌だから大人しくしてくれればいいけど、恐らくフィオナに会うまで何度もここを訪れるだろう。あの調子でフィオナに会えばその場で殺されるだろう。そうなれば、国民からの反発は今よりまし抑えきれなくなってしまう。何とかして対策しないとな

 そんなこととは裏腹にモニカは一度も訪れなかった。手紙なども間接的接触も無かった。諦めたわけではないだろうが、とりあえず何事も無くてよかった。

 この時、もっとモニカを注視しておけばよかったのか、それともこれで良かったのかはいつまでも答えは出ない。


 それから半年が経ちフィオナの誕生日が近づいてきた。毎年、国を挙げてフィオナのご機嫌取りのために盛大に祝われる。が、今年はイーライが亡くなったこともあり、どこか重い空気の中で行われていった。

 風の大国の王の誕生日ということもあり、風の国の貴族、属国である王侯貴族、そして他の大国の使者たちが集まっていた。


 その中には、水の大国の王太子であるザークシーズ・ヴァンサもいた。彼は、フィオナの幼馴染で、婚約者だ。

‘‘フィー”、‘‘ザクス兄さま”と呼び合う姿は婚約者というより兄妹の方が似合っていた。それは年齢から見てもそうだ。フィオナは今度の誕生日で十五歳、対してザークシーズは二十歳。五歳も差がある。王侯貴族にとってはよくあるがそうでない者にとっては五歳差は大きい。

 二人が兄妹に見えるのは何よりザークシーズがフィオナに向ける、眼差しのせいだろう。フィオナは彼を一人の男として見ているのに対して、ザークシーズは妹とでしか見ていないのだ。二人に温度差があるのは見ればすぐに分かる。それで、いいのならいいが。

 お互いがお互いの気持ちに気づかなければフィオナは、笑っていられる。


 が、それはフィオナの誕生日後日、ザークシーズの一言で崩れていった。


「婚約を破棄、して欲しいんだ。母にはもう言った。好きにしていいと言われたよ。幸いこの婚約はフィオナが成人になるまで仮のもので正式のものじゃない。」


「何故ですか?」


 俯いているためフィオナの表情は分からない。声色は硬く何かを耐えていのだろう。


「好きな人がいるんだ。僕はその人と生涯を共にしたい」


 何も言わないフィオナ。


「僕はこれで国に帰るよ。さようなら、フィー」


 ザークシーズはそう言って自国に帰っていった。この選択が最悪の状況を引き起こすとはこの時は分からない。

 一方的に言って行った彼はどこか後ろめたそうで、少し心の荷がおりたかのように感じた。


 独りになったフィオナは、しばらく何を言われたのか理解できないようで茫然としていた。


「なんで?

 どうして?

 私がいるのに、どうして他の女を?

 私は、捨てられたの?

 なんで?なんで?ざすくにいさまぁ」


 独り言をこぼしながら、ぽろぽろと次々に流れてくる涙。次第にわんわんと泣きじゃくり、その姿は暴君ではなくただの少女。


 悟ったのだろう捨てられたのだと


「姫様」


 ようやく落ち着き始めたフィオナに話しかけたのは、宰相のベルジュ侯爵だ。

 ふくよかな体系の中年男性で、フィオナ女王を操る一人。


「お可哀想に、ベルジュはいつでも姫様の味方ですぞ。これは小耳に挟んだ話しなのですが、どうやらザークシーズ王太子の想い人は隣国の光の属国の貴族の娘みたいですぞ」


 ニヤニヤと何やら企んでいるような笑みを浮かべてフィオナに悪魔のように囁く。

 泣きはらして空虚の中にいたフィオナがここで初めてベルジェを見て首を傾げる。まるで、どうすればいいのか分かるだろう隣国を潰せと言うようなもの言い。しかし、彼の言葉の裏に隠された本音に気が付かないフィオナはそれをそのまま受け取った。


「殺せ、ザスク兄さまを奪った女を


 隣国の女全員殺して滅ぼせ」


 この場にいた者の反応は二つ。

 一つは、戦争が始まったと恐怖するも

 もう一つは、戦争が始まり喜ぶもの


 余りにも理不尽な戦争が幕を開けた。

 一体いつまでこの少女は大人の汚い欲望に利用され続けなければいけないのだろうか


 戦争が始まったが、王都は変わらず平穏に見えたがその裏ではスラムが増えていた。

 すぐに終わると思われていたが、予想よりもずっと長引くこととなった。


 男は戦地へと送られ、残った女子供で増額された税金を払うために必死にお金を稼ぐ。

 戦争は、多くの人が苦しむ、家を失い、大切な者がいなくなり、家族を、命が無残に消えていく


 もし、イーライが生きていればこんな戦争起こらなかった。誰もがそう思っていただろう。しかし、それはもしの話。イーライはもうこの世にいない。


 戦争中、フィオナの生活は何一つ変わらなかった。ザークシーズのことでショックを受けているかと思ったら以外にも立ち直っていた。そう見せかけているのかもしれないが。

 欲しい宝石を買いあさり、身に着けたいドレスはどれだけ手に入りにくい生地のものでも身に着ける

 最高級の食材を使った料理、デザートを気が済むまで食べる

 我儘で侍女を振り回し、気に入らなければ首を刎ねる

 そのやりたい放題ぶりは、当然国民の耳にも入った。


 二年にも及ぶ戦争が終わるころには、密かに反乱軍がつくられた。

 反乱軍は、戦争で十分な報酬を得られなかった兵士、フィオナに不満のある貴族をも取り込み革命軍と呼ばれるようになっていた。日を追うごとに彼らの動きは大きく大胆になっていく。それと共に国民も声を上げだした


 フィオナ女王に死を


 と。


 当然その声はフィオナの耳のも入っていた。が、彼女は驚くほどそれに無関心だった。彼女は城内に許可なく入れないと思っているらしい。

 その余裕と傲慢が仇となりあっけなく反乱軍は城内に乗り込んでいった。


 反乱軍の中に、見の覚えのある赤髪の少女に驚く。モニカ・ホランだ。彼女は諦めていなかった。あの時、彼女から殺意を消しておけばよかった。いや、いつかこうなっていたか。


 貴族は真っ先に逃げた。

 城内で働く者たちは反乱に加担するもの、逃げる者に分かれた。


 俺は、どうしようか。フィオナを守らなければならないはずの騎士は皆反乱軍に加勢した。

 このままでは、フィオナは確実に捕まる。その末路は決まっている。それに俺一人で抗うのは厳しい。彼女の運命はここまでということか。


 逃げる前、フィオナの私室まで行って一言


「お逃げください」


 と、だけ言った。この言葉を聞いて逃げてくれたら、運命は変わるかもしれない。

 しかし、そんな思いも虚しくフィオナ女王は捕まった。


 どうして君は、逃げなかった?

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