第9話 ネットのモテるは当てにならない

 江波莉子の協力によって藤村花音を陥落させた俺、真守。だが、まだ優のヒロイン候補は他にもいる。保健室の先生、倉松先生に新聞部部長、田中愛。新聞部といえばもうすぐ文化祭、体育祭と行事が詰まっていることからだいぶ忙しそうにしている。倉松先生も体育祭では怪我人の看護で忙しくなることだろう。さて、どちらを落とすべきか。

「どちらを落とすかどうか考える前にまずは女の恋愛観を少しは学ぶべきね」

 教室内、江波莉子がノートに英語を書きながら言う。机の横には大きな紙袋。中には冊子らしきものが詰まってる。

「良い?ネットに落ちてるような『女はこれで落ちる!』だとか『女の心理!』みたいなのってほっとんど的外れだから。そんなもの読むくらいならこれ全部何度も読みなさい」

 はい、と渡された中をマコと2人で覗き込む。……少女漫画だ。

「様々なジャンルのものを家から持って来た。壁ドンとかは実際にやってもマイナスだけどなんとなく女子の理想っていうのがこれでわかるんじゃない」

「男女の駆け引きの練習とかはしなくていい?」

「あんたには早過ぎ。それに倉松先生に至っては大人よ?小手先のテクニックが通じるとでも?」

 ごもっともである。



 学校に持って来ていることは絶対バレないようにしなさいと言われ、マコが漫画の入った紙袋を持つことに。

 江波莉子は明日の宿題をさっさと終わらせようとしている。いつもこうして勉強しているのだろうか。

「なぁ、俺も一緒にやって良い?」

「良いわよ」

「じゃ、私もします〜」

 3人でカリカリ、とノートにペンを走らせる。何とも高校生らしい放課後だ。一緒に勉強することで教えてもらえるだろうという打算もある。



 江波莉子は何も宿題のみを終わらせるつもりだったわけじゃないらしい。参考書とかも広げて難しそうな問題集を解き始めてしまった。俺らはと言うとなんとか宿題を終えていたのでさっさと退散することにした。

「そういえば最近真幸神社に来てくれませんね」

 電車内でマコが口を開く。律儀にも電車賃はちゃんとお賽銭の中から出しているらしい。お賽銭を入れてるのはがまぐちの巾着袋。

「そりゃあ行かなくてもマコに会えるじゃないか」

「そりゃそうですけど……じゃ、こうしましょ、今日は真幸神社でこれらを読みましょ!」

「途中で雨降って濡れるかもしれないだろ。返さなきゃいけないものだし家で読もう」

 言われてみると確かに真幸神社に行く足が遠のいていた。何せ家にいた方が夜遅くまでマコはいてくれるし、神社に行くと夕方でバイバイだ。その上、神様もいないとわかっている神社に手を合わせる意味は無い。

「たまには真幸神社に来てくださいね!……それが私たちの神力となるんですから」

「……あぁ」

 神力。人じゃない力。手を合わせれば合わせるほどその力を増してマコは違う世界、神様達の方へどんどん行ってしまうんじゃないか――。いや、マコは神様になりたがっているのだ。何を考えているのだろう、俺は。



 家に着くと早速2人して少女漫画を読む。マコは少女漫画を目をキラキラさせて読んでおり、本当に普通の人間の女の子みたいだった。思わず可愛らしくて頭を撫でるとくすぐったそうに「何するんですかー」と笑う。この時間が永遠に続けば良い。



 残念ながら時間というのは残酷だ。あっという間に夜が来て、マコは窓から飛び出すと、ぴゅーんと空を飛び、真幸神社のある山へと消えてしまう。

「……」

 今から真幸神社へ行ったところで危ないだけだ。

 俺は首を振りカーテンを閉める。それから読み散らかした少女漫画を片付け始めた。



「少女漫画って基本、最後は誰か1人とくっついておしまいって感じなんだな」

「そうそう!ハーレムエンドがあったりするのは男性向けって感じね。乙女ゲームならハーレムエンドも珍しくはないんだけど基本は誰か1人と結ばれるのが理想って感じなの」

 嬉しそうに江波莉子が語る。今日はマコは近所のおじいちゃんおばあちゃん達が神社の掃除をしに来るということで学校には来ていない。

「マコがいないと寂しそうね?」

「いや、そんなことは」

「ふぅん?」

 にやにやと意味ありげに笑われる。

「……マコは寂しくないのかなって」

「あんたがいなくて寂しがってるかどうかは分からないわねぇ」

「いやそうじゃなくて、ほら、マコって縁を結ぶか結ばないか自分の判断で今決められる状態じゃん?でも神様になったら信者以外とは縁を切らなきゃいけないからって今あえて縁を結ばずほとんどの人にただの空気として扱われるようにしているから……なんていうか、寂しくないのかなって」

「あぁ。寂しいんじゃない」

「だよな」

「というかこの前、廊下に張り出されていたじゃん?新聞部の、マコについて書いてた記事の前で悲しそうに立ち尽くしてたし」

「……」

 新聞部の記事は読んだ。違和感を覚えるほどに内容が浅かったマコの記事。転校生。好きなものはおからドーナツ。その程度の内容しか書いてなかった。取材したから記憶に残らなかったけどしょうがなく載せたという感じの。

「どうしたら縁を結んで良いとなるかな」

「そりゃあ……学校中を信者にするしかないんでしょうよ」

「だよなー」

「まぁ、今すぐは無理でもなんとか真幸祭までに人を集めれば良いんでしょ?なんとかなるんじゃない?」

「お!」

「あとはそうね……マコにそのことを信じてもらうこととか」

「どうすれば信じてもらえると思う?」

「そうね、考えとく」

「ありがとう」

 授業が始まるから、と江波莉子は教科書とかを取り出す。不意に周りから好奇の視線に晒されてることに気づいて俺も慌てて先に戻った。



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