第7話 実際やってみるとそりゃそうなる
マコが他の人と縁を作っても大丈夫となる条件。それは真幸神社に校内の人達を呼び、信者にしてしまうこと。それを俺が実現できると思わせること。
マコに黙って優のヒロイン候補、藤村花音を落とし、実行力を見せる作戦は失敗に終わった。しかし、まだ機会はある。
「なぁ、優!」
大槻がいないのを見計らって俺は優に話しかける。嬉しそうに優がこちらを見る。
「学校の中で誰が可愛いと思う!?」
こうなれば優の中の順位を直接探る作戦だ。
「校内……」
優がうーんと唸る。俺はなんとか話を盛り上げようと言葉を続けた。
「校内ランキングつけててさぁ、やっぱ本命はまどかちゃん役の藤村さんか?それとも風紀委員で厳しいけども笑った時のギャップにときめく江波か、はたまた担任の渡邊先生も華奢で人気だよな」
ペラペラと校内ランキングについて語るモブ男子。ラブコメにはなぜか大体いる親友ポジ発言をしながら優の様子を伺う。あの漫画のモブも主人公の座を眈々と狙っていたのだろうか。
「……拙者にはまどかちゃんしかいないでござる」
優が困ったように笑った。
ラブコメにも色々な種類がある。1カップルの恋愛を中心に回るものやハーレムもの。優の場合は恐らく『二次元しか興味ない僕が痩せたらモテてしまってるようだ』といったハーレムものなんじゃないだろうか、と俺は踏んでいる。だからそこまで答えを期待していたわけではないのだが、ヒロインを地道に探し出して落とさなければいけないことが改めて判明して残念。藤村花音は確定でヒロインだろうけども、彼女は落とすのに時間がかかりそう。だから時間がかからなさそうなヒロインを知りたかったのだが。
「やっぱお前はそうだよな〜!」
俺は笑いながら一時撤退を決めた。
「ここ最近、何もしてないようですけど、ちゃんとラブコメの主人公の座、狙ってます?」
席に着くとマコが話しかけてくる。マコに内緒で動いて失敗したとも言えない。
「……試行錯誤はしてる」
「じゃあ、1人目誰を落とします?」
「誰って」
正直、藤村花音の件でかなり優のラブコメ力を見せつけられた気がする。その上で誰を落とすか。
「やっぱり、何も考えてないじゃないですか!」
「考えてる、考えてるって!」
「じゃあ何考えてるんですか!」
「それは……壁ドン、とか」
勢いで口にしてすぐさま後悔した。なんだ、壁ドンとかって。けれど、一度口にしたものは取り返しがつかない。マコは目をキラキラさせて1人の女性生徒を指差した。
「じゃあ壁ドンとやらで、まずはあの鉄壁の風化委員長、江波莉子を攻略しましょう!」
「現代のときめく行為、それが壁ドンなのですね!」
放課後、誰もいない教室。壁ドンという言葉をうまく口で説明できなかったので、実際にやってみせて、マコに説明をする。
「これのどこが良いのでしょう……?」
「あー、壁ドンでイケメンが女の子を逃げられないように追い詰めてだな、耳元で好意を囁いたり、――これは顎クイと呼ばれるらしいが――顎をクイッと持ち上げてキスしたりするのが一時期大流行りしたんだよな。なんで良いのかは分からん」
大体壁に追い詰められて女子が怯えないわけがない。これが許されるのがイケメンのみだというのになぜ俺は口にしてしまったのか。
「ともかくその壁ドンをスムーズに江波莉子にやって恋に陥らせたら成功、というわけですね!」
「そういうことだ」
何がそういうことだ、だよ。はあぁ、と溜息をつきたくなるのを飲み込む。言ってしまった以上やるしかない。それに他に良い案があるわけでもない。運良く江波莉子のツボにハマればラッキーである。――殴られる確信しかない。
落ち込んでいると俺の手をぎゅっとマコが握り締める。女子の仄かな体温と香りが鼻腔をくすぐった。もうどうでも良いや。
「それでは壁ドン、練習しますよ!」
可愛い女の子に壁ドンなんてことができるのである。本来はときめきそうなものなのだが。
「やり直しです」
これがなかなか難しかった。まず、壁をドンと叩くだけでは女の子は簡単に逃げられてしまうし、かといって近づくと照れ臭くて顔を背けてしまう。手をつく位置も勢い余って上過ぎたり下過ぎたり、ちょうどいい位置に手をつくことができない。手をつく音の大きさだって女の子を怯えさせないようにうるさくなく、かと言って少しは音がするようにしなければいけない。そういうわけでときめきどころか、疲労感だけがあった。
「俺、何してるんだろうな……」
「何って、壁ドンでしょう?」
マコのキョトンとした顔。
「そうだったな」
「はい!それじゃあ壁ドンやり直しです!」
「あぁ」
「あ、そろそろ壁ドンの続きで顎クイもセットにしましょうか」
「やれる気がしねぇ……」
「気合いですよ、気合い」
気合い、か。こうなったら一発で決めてやる。――手の位置はマコの小さな顔の横に。勢いをつけつつ、顔は背けないで彼女の黒くて丸い目を見つめる。もう片方の手は彼女の白い顎へと手を伸ばす。
「……」
「……」
2人の視線が交差する。綺麗に揃い、達成感と恥ずかしさから頬が熱い。マコの顔も心なしか赤く染まってるように思えた。
「――やれば、できるじゃないですか」
「まぁな」
汚れを知らないような、綺麗な赤い唇。唇と唇の位置が近い。目線はどうしてか外すことができない。……と。
「あ、し、失礼したわね!」
突然、江波莉子の声。2人して視線をやると、ドアのところであたふたする彼女の姿があった。……最悪である。
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