七夕竹




 ひまわり島。

 巨大な湖の中に浮かぶ小島の四島の内の一島。

 七夕と前後の月には、己の背丈よりも高いひまわりが雄大に広がり咲く。


「よっこらせっと」


 男、彦次郎ひこじろうは馬の尻尾のように、長く伸ばしてはうなじの辺りで無造作に一つにくくった後ろ髪を揺らしながら、小舟に寝かせて置いた大きな竹を片手で垂直に持って、小舟からひまわり島へと飛び跳ねて着陸。

 器用に片手で島の縁に刺し込んでいた木の杭に縄を結んで小舟を固定。

 片腕で竹を高く掲げて、ごめんよとひまわりに謝り葉を大きく揺れ動かしながら、ひまわりの合間を縫って中央へと進む。


 緩やかな丘を大股で十分ほど上り歩いた処で、中央に到着。

 不思議とひまわり処か、他の植物も一切合切生えていない丸裸の赤土に竹を勢いよく突き刺せば、面白いほどにやわらかい赤土の中へと入り込んで行く。

 もしかしたら、竹が全て埋まるのではと危惧してしまうほどに。

 けれど心配は不要だ。

 少しすれば地中の岩に突き当たるので、強制停止させられるのだ。


「今年も綺麗に飾ってもらったな」


 彦次郎はまっすぐに立ち誇る七夕竹を、目を細めて下から上へと具に見つめた。


 折り紙で作られた、吹流し、瓢箪、そろばん、大福帳、千両箱、鯛、網、輪つづり、提灯、スイカ、トマト、キュウリ、ナス、トウモロコシ、そして、赤、青、黄、白、紫の五色に願い事が書かれた短冊が、竹の枝葉の数に負けぬほど飾られていた。











(2022.7.7)



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