知れば知るほど恋に落ちる ④
テストが終わって1週間がたったころ、テストがすべて返却された。正直私は今回のテストにあまり手ごたえを感じていなかった。恐る恐るテストの点数を見てみると、得意の現国はそこそこの点数がとれていたが、ほかの教科は赤点より少し上くらいの点数だ。
その結果を見た私は赤点を回避できたにもかかわらず、なぜかとてもショックを受けていた。せっかく和也にあんなに勉強を教えてもらったのに、こんな点数しかとれなかったなんて。しかも学年の順位は下から数えた方が早い。赤点は回避できたけれど、これじゃあ和也に会わせる顔が……。
「鈴谷ー、テスト結果どうだった? 赤点とると部活に支障がでるだろう」
「か、和也。赤点は回避できたけれど現国以外ほとんど赤点よりちょっと上くらいで」
その私の言葉に和也は怒るわけでも呆れるわけでもなく、目をぱちぱちさせて少しの間黙った。ど、どうしたんだろう。やっぱりあんまりな成績に引いてるとか? そんなの嫌だ。
「まあまだ高校入ったばかりの成績なんだからこれからいくらでも取り返せるだろ。そんなに落ち込むなよ、な? それに鈴谷には部活もあって人より勉強に使える時間も少ないんだからさ」
そんな風に私を慰めてくれた。そういえば和也は結果どうだったんだろう? 興味はあるけれど、どこか怖い気持ちで和也に聞いてみた。
「和也はどうだったの? テスト結果」
「俺はまあ、学年のなかで一応10位以内に入ることができたよ。でもここから落とさないように気を付けないとだな」
学年順位10位以内!? それって私とかなり成績差があるってころじゃない。別に私と和也は目指すところが違うのだから比べる必要はない、はずなのになぜかもやもやしてしまう。私はこの自分の成績に納得ができなかった。
確かに私は部活で忙しくて勉強する時間はあまりない。でもそれを理由に成績を落とすことがなぜか今は許せなかった。入学当初ならそんなことは考えなかったはずなのに、なんでなんだろう。自分でもわからないけれど、今は和也に勉強のコツを聞いて次に活かさないと。
「和也はいつも通学中に勉強しているって言っていたわよね? 何かいい参考書とか勉強方法あるならおしえてほしいんだけど、いまちょっとだけ教えてくれない?」
「いいぞ。そうだな、ここの参考書なんか薄くて軽いけれど要点がまとめてあるから通学中の勉強に最適だぞ」
そう言って歴史などの暗記系のおすすめ参考書を教えてもらったり、数学などの勉強方法を軽く教えてもらった。それをメモにとった私は和也にお礼として自販機で買ったジュースを渡してお礼を言った。和也は最初別にいい、って言っていたけれど最後は受け取ってくれた。
そして昼休みが終わりに近づいてきたため、次の体育のために更衣室まで運動着に着替えに行く。更衣室で運動着に着替えて、本日の体育授業で使うハードルを奈緒たちとお喋りしながら準備をした。
ハードルの準備が終わって先生が笛を吹くたびにどんどん人が走っていく。そんな光景を見ながらなんとなくさっきの私の感情について考えていた。なんで私はあんなにも成績にこだわったんだろう。だって赤点を取らなければ進級も部活も問題はない。それなのに参考書まで買おうとして勉強をしようとしている。
特に行きたい大学もないし、今のままでも問題はないのになんで私はこんな風に考えが変わったんだろう?
前の走者が走り終わったため次は私たちの番だ。ピーッと先生の笛が鳴り走り出してハードルを飛んでいる時に、たまたま私たちの走る向こう側に和也がいた。その顔が見えた瞬間、私はらしくもなくハードルに引っ掛かりハードルを巻きこんで思いっきり転んでしまった。
「鈴谷、大丈夫か!?」
そんな和也や先生が心配する声がどこか遠く聞きながら私は自覚してしまった。そうだ、私は和也を目標にして走り出していたんだ。和也の意外な一面、努力している姿や年相応なところを見て惹かれて、彼の未来の話を聞いた時その隣に私がいないことをどこか寂しく思ってしまっていた。
そうだ、私は自分の目標に向かってひたむきに頑張る和也が好きなのだ。先生が近づいて大丈夫かと聞いてくる。足から血を出ているため、保健室に自力で行くように先生に告げて保健室まで行き治療を受ける。治療を受けている間もなんだか頭がポヤポヤして変な感じがした。きっとこれが恋をしたということなのだろう。
5時間目の体育が終わったタイミングで教室まで戻ると、奈緒たちが大丈夫だった!? と聞いてきたがどこかふわふわした声で大丈夫、と答えた。すると奈緒たちの後ろから和也が現れた。
「だいぶ派手に転んでいたみたいだけれど、怪我の具合はどうだ?」
和也に声をかけられて思わず固まってしまう。どうしよう、自覚したらすごく恥ずかしい。でもここは普通にしていないと嫌われちゃうかもしれない! 落ち着け落ち着け、と心のなかでつぶやく。
「鈴谷?」
「ごめん、ちゃんと治療してもらったから平気。ただ今日の部活は出ないように言われたけれどね」
「そうか、お大事にな」
そう言って自分の席に戻っていく和也にほっとしたような、寂しいような我儘な心を押さえつけながら私も席に着く。私は和也が好き。でもきっと今の和也は私のことを友達にしか思っていない、と思う。だからってあきらめることはできない。
だからどこかで和也にアタックしないと。それと、和也の隣に立っていても自分で嫌な気分にならないように勉強ももっと頑張らないと! そう気合を入れなおして次の授業に向き合った。
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