知れば知るほど恋に落ちる ⑤

 あれからしばらくたっていまは7月だ。私は和也のことを意識しながらも嫌な態度をとらないよういつも通りでいるのが精いっぱいでアプローチしきれずにいた。それにアプローチといっても何をすればいいのか全くわからない。

 どうしたものか、と考えていたら部活の先輩が彼氏と花火大会に行くという話を耳にした。そうだ、花火大会!これに和也を誘おう。それに奈緒や最近奈緒と仲のいい西野くんを誘ったら楽しくなりそうだし、きっと距離も縮められる。

 よし、明日になったら和也を誘おうかな、なんて考えていたら同じ陸上部女子たちの会話が耳に入ってきた。


「え、あなたDクラスの相島君が狙いなの!? えー、なんか意外だね。まあ彼いい人だし多少はモテるみたいだけれど」


「だって相島君って頭いいみたいだしおしゃれじゃない。ちょっと女の子扱いはされないけれど、素敵だなって」


「あたしだったら絶対に周防先輩狙うな、優しいしイケメンじゃん。あんな人と付き合いたいよ」


 あんたには無理よ、えー、なんていう会話を聞いて私は思わず固まってしまった。和也ってモテるんだ。あの子曰く多少は、みたいだけれど。でも確かに和也は頭いいし運動もそれなりにできて、そしておしゃれや流行には詳しい。そういうところに惹かれる子もいるんだ。

 まあ私はそういうところじゃなくてひたむきに努力しているところに惹かれたんだけれど……。って違う、このままじゃまずい! あの子だけじゃなくてほかにも和也のことを狙っている子がいるかもしれない。それなのにのんびりしていていいの?

 もやもやした気持ちを抱えたまま、その日の部活を終えて家に帰った。お風呂に入って夕飯を食べた後、和也に教えてもらった数学の勉強方法を実践しながらも心のどこかで私は花火大会のことを考えてしまっていた。


「はー、今日はダメだ。ここまでにしよう」


 そう声に出して教科書とノートなどをもとの場所に戻す。いつもなら和也に追いつこうと必死になって短い時間でも少しは勉強できるのに、今日のところはそうはいかない。勉強に支障がでるのは困った。どうしたらいいんだろう。

 机の上を片付けてベッドの上でスマホを触る。その画面には花火大会について書かれたページが映し出されている。最初はみんなでわいわいやれたらいいと思っていた。でも本当にそれでいいの? ほかの子に先を越されちゃうかも。

 そんなの絶対に嫌だ。まだ私は和也の隣にいるのにふさわしいかなんてわからないけれど、ほかの子が隣居る姿を見たくはない。それに、まだやれることがあるはずなのにやらずに諦めるのは嫌だ。

 そこまで考えて私は花火大会は和也と2人で行こうと決めた。2人きりでいこうなんて誘ったらそれだけで気持ちは伝わっちゃうかもしれないけれど、伝えきれずにこの恋が終わる方がもっと嫌だから。

 だから私は、和也を花火大会デートに誘う。


 そうと決まったら善は急げとばかりに和也にメッセージを送る。学校で直接誘おうかとも思ったけれど、さすがに周りの目もあるし恥ずかしくて無理だった。花火大会に一緒に行かないか、と送るとすぐにいいぞと返信が来た。そしてさらにほかに誰をさそうか、といったものも送られてきた。やっぱりそうなるわよね、と思いながらもちょっと落ち込みつつ私は勇気を出して2人きりで見に行きたい、とメッセージを送った。

 和也はいつもすぐにメッセージを返すのに今回はなかなか返ってこない。それもそうだ。私と和也はただの友達であって恋人ではない。仲は良いけれど異性として意識されているのかも正直微妙かもしれない距離感だ。ドキドキしながら返信を待っていると、和也からわかったといった内容のメッセージが返ってきた。

 やった! これで和也と一緒に花火大会に行ける。弾む心を落ち着かせながらまた後日時間とか詳しい予定を立てようと送信する。きちんとデートの約束が決まったことでようやく安心して眠れるな、なんて思いながら電気を消して布団のなかに入るが、そこで気が付く。私、花火大会に着ていける服なんて持ってない。いつもの白黒のシャツやジーンズばかりだ。

 まって、世の中の女の子たちはいったいどんな格好で花火大会に行ってるの!? 布団からバッと起き上がった私は一度消した電気をつけてスマホをいじる。そこで慣れないながらも情報をかき集めた結果、ほとんどの場合浴衣を着て化粧をして異性に意識をしてもらうらしい。

 ちょうど明日は学校も部活も休みだ。それに幸いお小遣いやお年玉は普段使っていないものが溜まっているため、それで買いに行こう。そうして買うものリストをメモ帳に書いていたらいつの間にか日をまたいでいたのは仕方のないことだろう。


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