知れば知るほど恋に落ちる ②

 5月の連休初日、私は部活が休みのため暇を持て余していた。せっかくの休日で、外は綺麗な青空が広がっている。そんな日に家でゴロゴロしているなんてもったいない! そう思った私は電車にのってすぐ近くにあるそれなりに大きい公園に行くことにした。

 この時期ならツツジやダリア、あとは品種によってはバラも見ごろなので散歩がてら見に行こう。そう思い黒のパンツに白のシンプルなブラウスを着て日焼け止めクリームを塗る。髪はアレンジなんてできないためいつも通り黒いヘアゴムで後ろの方に結ぶ。あとは今日は日差しが強いため白のキャップを被って外に出ると、思った通り日差しが照って暑いくらいだ。

 帽子被ってきて正解だった。こんな日差しの中何も被らずに外にでたら頭が火傷するところだったな。そんなことを考えながら駅まで歩いて電車に乗る。スマホをいじりながら到着するまで待っていると、ふと和也のSNSが目に留まった。別にあれから特に何かあったわけではないけれど、なんとなくスマホでほかの人のSNSを見てまわっている時に目に入ってしまう。

 普段は特定の誰かの写真やつぶやきなんて気にしないのに、なんでだろうなんて考えていたら公園近くの駅に到着した。入園料を払って中に入ると、そこには赤、ピンク、オレンジ、黄色、白などの様々な色の花が咲いて私は思わず目を奪われる。


「綺麗……そうだ、たまには写真撮ろうかな」


 あまりに綺麗に咲いているものだから普段はそれほど撮らない写真を撮って休日明けに奈緒たちに見せよう、なんて考える。パシャリとスマホで何枚か写真を撮っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「鈴谷じゃん、写真撮るなんてめずらしいな」


 その声に驚きながらも後ろを向くと、そこにはやはり和也が立っていた。ラフではあるがどこかお洒落な感じの服装、あまり詳しくはないがストリート系というのだろうか? そのような服を着ていた。活発な和也らしい恰好だなと思うとともに、普段の制服姿とは違う姿にちょっと見惚れる。しかしすぐに意識を引き戻して彼の言葉に返事をする。


「すごく綺麗なバラだったから思わずね。まあ和也みたいにSNSに上げることはしないけれど。和也も花を見に来たの?」


「いや、俺はここで買えるバラのソフトクリームってやつがSNSで見かけて気になってな。綺麗な青色で写真映えしそうだなって。それにせっかくのいい天気だから遠出したくて」


「へえ、青いバラのソフトクリームなんてあるんだ、知らなかった。それにしてもまた写真映えだなんて相変わらずね。」


「いいだろ別に。そうだ、せっかくここで会ったんだし一緒に見ていこうぜ! それと一緒に青バラのソフトクリーム食べよう。鈴谷も気になるだろ」


 そう言って和也は園内の看板に従って歩いていく。まあ確かにせっかくあったのでこのまま一緒にまわるのも悪くないかもしれない、なんて思いながら和也の隣にいき歩く。和也はあの花はなんだ、なんて私に聞きながらゆっくり歩き、私は答えられる限りその問いに答えながら歩いた。

 そして見事な花を見かけては写真を撮って歩いた。そうして過ごしていたらソフトクリームが売っている建物を見つけたためなかに入る。今日は暑かったからかそれなりに人が並んでいたが、そこまで待たずに買うことができた。

 二人でテラス席に座り、和也は写真を撮ってからぱくりと一口食べてみる。うん、冷たいし色も鮮やかなブルーで涼し気、でも味は……


「なんていうか、うん。普通ね」


「だな、まあ写真映えだけ狙ってきたけれど普通のソフトクリームだ」


 その味に二人してすこしだけがっかりしながら口に運ぶ。食べながら最近あった陸上部の出来事や和也たちのグループであったちょっとあほらしい話をしていた時、ふと気になっていたことを聞いてみた。


「そういえば和也、今日は遠出でここに来たって言ってたけれど家は遠いの?」


「え!? あ、いや……そうだ鈴谷! ここのパスタも気になってたから食べないか、俺買ってくるからさ」


 そういいながらカバンの中に手を入れて財布かなにかを探していると、焦って中身を出そうとしたせいか、カバンからいくつか物が落ちていた。もう、なにやっているんだかと思いながらその落ちたものを拾おうと手を伸ばすと、それは英単語帳だった。

 よくよく見てみると、ほかに落ちてきたもののなかには小さめの歴史の参考書まである。和也はそれを急いでしまおうとしているが、もう気が付いてしまったので意味はない。私は拾った英単語帳を手渡しながら率直に思ったことを伝えた。


「和也ってこういう出かける日まで勉強してるの? すごいわね」


 その私の言葉にどこか目をきょどきょどさせた後、観念したかのようにまっすぐに私の目を見て話をした。


「さっきの質問だけど、俺の家はここからさらに1時間以上電車を乗ったところにあるんだよ。だからその移動時間に勉強してるの」


「1時間以上!? え、じゃあ学校からもかなり遠いじゃない。なんだって近くの学校じゃなくて今の学校に来たのよ」


 私がさらに疑問をぶつけると和也はワックスで整えた茶色い髪の毛をクシャっと手で少し乱しながら話をした。曰く、自分の家がある町は田舎過ぎて嫌だったこと。将来は都会の有名大学へ行きたいため、今くらいの進学校に行って勉強しないと後々大変だということ。だから平日や休日は移動時間を利用して勉強をしていると話した。

 それを聞いて私は内心驚いた。以前のようにチャラ男とはもう思ってはいなかったが、正直学校では友達と喋ったり遊んだりしていることが多かったからそんな風に陰で努力をして目標をしっかり持っているなんて。


「なんていうか、びっくりした。そうやって勉強しているところ見なかったから」


「隠してるわけではないけれど、だからってひけらかすようなことでもないしな。ただ、俺が田舎からきたことは言わないでくれよ。恥ずかしいから」


「別に恥ずかしがるようなことでもないと思うけれど、まあわかったわ」


 そう約束をした後、テラス席から立って引き続き園内をまわる。和也とまた何でもない話をしながら私はしっかりと目標をもって努力している和也を心の中で尊敬していた。それと同時に、また何か心の中で何かが動くような、大きくなるような感覚があった。これはいったい何だろう?

 そして園内をぐるりとまわったあと、駅まで一緒に行き解散した。最後に田舎のことは言うなよ、と念押しされたが言うつもりは全くない。そうして電車に乗って今日撮った私と和也が映った写真を見返す。せっかくだから、と言われてなんとなく撮ったものだけれど私はなぜかそれがほかの写真に紛れ込むのが嫌で新しい専用ファイルのなかに入れた。

 こういう写真がもっと増えたらいいのに、なんて写真なんて特に好きでもない私らしくないことを考えながら電車に揺られて最寄り駅につくのを待つのであった。

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