知れば知るほど恋に落ちる ①

Q.あなたにとって恋とはなんですか?


「鈴谷のことは明るくて素直でいいやつだと思ってる……、でも正直恋愛対象として見たことはない」


 花火が上がる音や周りの観客たちの声で騒がしいはずなのに、その声は驚くほど鮮明に聞こえた。今日は浴衣を着て普段は適当に縛っている髪の毛もかわいく結って、   お守りの色付きリップもつけてきた。下準備や場所取りもして、全部計画通りだった。

 だからきっとうまくいく。そう思っていた。それなのに、それなのにやっぱり私は……


 奈緒みたいに気配りができないから?斎藤さんみたいに優しくておしゃれじゃないから? そんな風に問い詰めたくなる口をぎゅっと結び必死に声に出さないようにする。

 違う、そんなことが言いたいわけじゃない。それにそんなことを言ったって幻滅されるだけだ。だから今私ができることは、ただひたすらに和也と付き合えるように努力するだけ。

だから私は……


「それじゃあ! お試しでいいから付き合ってよ」


 そう、今は恋愛対象として見てもらえてないのであればこれから見てもらえばいいんだ。どれだけ泥臭くたっていい、私は私らしくひたすら努力をしてまっすぐ突き進むだけ。

 そうして努力をしたからといって必ずしも思っていた結果が出るかはわからないけれど、その時間はきっと無駄じゃない。


努力して努力して、きっとあなたを振り向かせてみせる。







 最初の印象は正直な話、あまり良くはなかった。入学してからそう日がたたない頃に和也から話しかけてきた。奈緒たちと一緒に放課後おしゃべりしている時に自然と会話に入ってきたのだ。

 クラスメイトだから名前は知っていたけれど、それくらいしか接点がなかったため私は戸惑ってしまった。しかし不思議なことに奈緒たちは勝手に入り込んできた和也に嫌がるわけでもなく、ごく自然に会話していたのだ。

 そうして話をしていたらすぐにスマホを取り出して連絡先を交換しないかと言ってきた。もう私はこの時点でこの人は何なのだと思っていたのだが、奈緒たちが交換したため流れで私も交換してしまった。

 そんなことがあったから私のなかで相島和也という人物は『チャラ男』と位置付けていた。


 しかし4月のとある授業でグループワークをすると、和也は手慣れた様子でみんなに指示を出していた。これには正直驚いた。たしかにコミュニケーション能力は高いとは感じていたけれど、リーダーシップがあるとは。

 勝手にただのチャラ男と位置付けていたのが申し訳なくなりながらグループワークの課題に取り組んでいると、ふとほかのグループが目についた。彼はなんていう名前だっけ……。グループから孤立している彼の名前が思い出せないが、気になったため奈緒に相談してみた。


「ちょっと奈緒、あれ大丈夫かな」


「え?」


 そう話しかけると奈緒も彼の状況に気が付いたらしく、どうしようといった風に考え込んでいる。すると課題に取り組まず何かを見ている私たちに気が付いた和也が彼を見て眉をひそめていた。


「あー、あれはよくないな」


 どうやら和也から見てもあの状況は良くないと感じたようだ。しかし今動くわけにもいかないため、とにかく課題をこなしながら時間が過ぎるのを待った。

 チャイムが鳴り、授業が終わるとすぐに和也はあのちょっと暗そうな彼の方に近づいて話しかけた。


「おーい、あんたさっきの授業のことだけどさ」


 すると彼はびくっと肩をはね上げて和也の方をみる。黒縁眼鏡をかけいる彼をじっと見つめて名前を思い出そうとする。そうだ、西野だ。やっと思い出した。そんなことを考えていると奈緒の方が西野に声をかけていた。


「ねえ、さっきの授業うまく加われていなかったみたいだけど」


「大丈夫だから!」


 すると西野から大きな声がでて驚いた。西野ってこんな声出せたの?正直そんな印象なかったし知らなかった。


「な、なんともないよ、大丈夫。ありがとう」


 そういって去っていく西野と追いかける和也を奈緒が驚き固まったような様子で見送っていたので、声をかける。


「なんか……、西野ってあんな風に声出せるんだね。びっくりした」


「うん……」


 なんともありふれたようなことしか話せなかったけれど、どうやら意識は戻ってきたようだ。それにしてもあそこで西野を追いかける和也はなんというか、意外と面倒見がいいのね。なんて思いながら次の授業の準備をした。


 そうして放課後になり私が所属している陸上部に顔を出すと、どうやら顧問の先生が家庭の事情でいないため急遽休みになったとのことだ。それなら奈緒たちと一緒に途中まで帰ればよかった、なんて考えながら校門まで歩いていると、和也に話しかけられた。


「よ、今帰り? 部活はどうしたんだよ」


「今日は顧問の先生がいないから休み。だからこれから帰るところよ」


「そうか。鈴谷って確か電車通学だったよな、それなら途中まで一緒に帰ろうぜ」


「まあ、いいけれど……」


 なんというか、本当に距離を詰めるのが早い人だな和也って。でも不思議と嫌な感じにはならないからすごいわよね。最寄り駅まで歩きながら今日学校で会ったことを話す。


「そういえば西野とはあの後結局話せたの?」


「いや、なんだかあいつ怯えているっていうか、壁を作っていてさ。昼休みに飯一緒にどうだっていっても断られたわ」


「そう……」


「なんか様子がおかしいから、クラスの連中たちとも話してしばらくは様子を見てみようってことにした。無理に距離を詰めるのは良くないからな」


 その言葉を聞いて驚いた。私たちとはすぐに距離を詰めてきて連絡先まで聞いてきたけれど、相手を選んでちゃんと距離を縮めているんだ。なんというか、大人なんだな和也は。そう心の中で関心していると、和也はある店の前で立ち止まった。


「お、これちょっと前にSNSで見たやつじゃん。ここに新しく店作ったんだ。俺買っていこう。鈴谷は?」


「え、じゃあまあ買っていこうかな」


 その店を見かけたとたんに急にテンションをあげていた和也はさっきの大人っぽさはどこへやら、普通の男子高校生に戻っていた。そして和也曰く少し前から流行りだというその炭酸の入ったレモネードを買って飲む。

 プラスチックのコップに輪切りにされたレモンがこれでもかと入っていて、なんだか見た目も味も爽やかだ。すると和也はそのレモネードを手に持ちながらもう片手でスマホを持ち、器用に写真を撮っていた。


「何やってんの?」


「SNSに上げる用に撮っているんだよ。せっかく流行りのもの買ったんだから載せたいだろ?」


 そう言って何枚か写真を撮り、やがて満足したのかレモネードを飲んでうめー、なんて言っている。私にはわからない感覚だ。人のSNSは見るけれど私はほとんど更新しないし、特にそうやって流行りのものなどを載せて楽しむということはしないから。


「そういや鈴谷ってこのSNSのアカウント持ってる? 持ってたら交換しようぜ」


「え、まあ見るためだけに作ったアカウントだからほとんど更新してないけれど、それでいいなら」


 お互いスマホを見せ合いアカウントを紹介し合い、つながる。そうしてレモネードを飲みながらなんでもない話をして駅まで来ると、彼は下りの電車に乗るらしいので駅構内で別れた。

 電車に乗りながら早速和也のアカウントを覗いてみると、鍵はついているが結構な人数とつながっていた。そして画像はおしゃれな食べ物や雑貨、有名なバンドのCDなどで埋め尽くされていた。これが流行りに強い人のSNSなのかな。

 なんというか、兄貴肌で面倒見がよく頼りになるし、思っていたよりも周りの見える人なんだけどこういう年相応なところもあるんだなってちょっとかわいく思えた私は少し変わっているのだろうか。それとも、もっと特別な感情が芽生えつつあったのか。






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